竹内明の最新刊『スリーパー』のPVだ。本のPVというのも珍しい。なにがなんでもNetflixで重厚な映像化をしてほしい。予算が少ないWOWOWも遠慮してほしい。
世界的にも視聴率が取れるのではないか。シリーズの初めからだとシーズン3まで作れる。竹内明は絶対に日本の映画会社や地上波などに原作権を与えてはならない。どうせジャニーズあたりの役者もどきを主人公に据えて、おバカなマンガ劇にしてしまうからだ。
数日前のこと、米国旅行中に読み始めたら止まらなくなってしまい、ホテルの部屋の中に一日中閉じこもってしまったヤバイ本だ。しかも、その部屋がFBI本部(フーヴァービル)の真ん前だったので、国際謀略というテーマにピッタリで、一人で盛り上がってしまったのだ。
この『スリーパー』はシリーズ3作目。警視庁公安部外事二課(ソト二)のエースだった筒見慶太郎を主人公とした国際謀略警察小説である。
竹内明はTBSの報道記者でニュースキャスターだから、食わず嫌いの読者も多かったのではなかろうか。じつはボクもどうせテレビマンが書いたのだから、お手軽で思い込みだけが先走るバラエティ小説でしょと思っていたのだ、ところがどっこい、この小説は精密な公安警察に対する取材をもとに書かれた重厚なものだった。
そのためか、シリーズ全般において登場人物が多い。しっかり読まないと筋を追えなくなるほどだ。しかし、作家は間違いなく意図的に行っている。警視庁公安部外事課は日本最大の防諜組織だが、日本公安警察独特の活動様式をもつ。秘匿による行動確認など、組織的長期的で特殊な尾行や張り込みを行っている。それゆえに主人公もさることながら、組織を描く必要があるのだ。
『スリーパー』は政府内の暗闘や警察組織内の対立を背景に、北朝鮮のスパイ組織を追わざるを得なくなった元外事警察官の物語だ。外事警察のウラ=完全秘匿組織の元部下たちを巻き込み、警察庁幹部からも追われながら、さらには娘も人質にとられて、究極の防諜活動を行う。ミステリーでもあり、アクション小説でもあり、要素は満載なのだが、違和感はまったくない。われわれがあずかり知らぬ日本のどこかでいまも起こっているかのようなの事件が描かれている。
ボクが保証してもしかたがないが、外事警察(公安警察)のウラ=秘匿組織は現実に存在する。職員名簿にも記載がなく、警視庁本部にも出勤しない。互いに監視し、追尾し、情報は係単位で秘匿し、一切警察内部でも共有しない。うちの近くの高井戸警察署にもその末端がいるはずだ。
ところで、主人公は警視庁公安部を追われた元エースという設定なのだが、それはある意味で公安警察を良く知る作家が、現在の公安警察に対して警鐘を鳴らしているようにも読めるのだ。本部で防諜のプロを養成しても、定期的な所轄との間の人事異動を繰り返すことでのノウハウの散逸や士気の低下。管理者の官僚化と過酷な現場の乖離。Netflixあたりがドラマ化するときにはそのあたりの現場の悲嘆も取り込んで欲しいものだ。
日本だけでなくあらゆる国が設置している影の組織。必要悪ともいえるのは軍隊も同じである。かれらの活動次第では国が滅びることがあるかもしれないのだ。秋の夜長に絶対の自信をもっておススメする一冊。ボクにとってノンフィクションより面白いと思った小説は数少ないのだ。
『スリーパー』スペシャルサイトはこちら