はじめにお断りしておくが、評者は嫌韓派でも親韓派でもない。あえて称するならば無韓派だ。たった1カ国の外国に対する好き嫌いで国を二分してはならないと思う。良きにつけあしきにつけ、いまは見て見ぬふりをすることが、両国関係にとっても良いと思うのだ。
しかし、それでは無責任にすぎるかもしれない。ならば分析や議論は専門家に任せよう。ただし、現場を冷静に取材し、中立的な記述ができる人物である必要がある。
そんなジャーナリストを探し出すことが難しいのも日韓問題をややこしくしている原因でもある。なぜか日韓関係にはプロでも感情が入り込んでしまうからだ。
ところが、本書の著者は親韓といってもよい朝日新聞の現役ソウル支局長だ。しかも出版社はどちらかというと右寄りと目されている文藝春秋である。そこでプラスマイナスゼロになるという期待で本書を手に取った。
本書は政治・歴史・経済・教育・社会・軍事・外交の7章で構成されている。記述は淡々として中立的だが、内容は韓国が社会のあらゆる側面で絶望の国であるという事実の集積だ。韓国人に生まれなくて本当によかったというのが素直な読後の感想だ。
絶望的な、壮絶にして無慈悲な学歴社会、米中に挟まれて地政学的に困難な外交、そして混沌きわまる政治風土、どの側面をとっても韓国は生きにくい国だと著者は訴える。
そんな悲惨な韓国の状況はよく知っているという人も多いだろう。同情する人もいることだろう。著者の立場は後者のようだ。そのある種の哀れみこそが、また韓国人を怒らせる要素になるかもしれないのだ。
それほどまでに日韓関係は難しい。それゆえの無韓派である。
※産経新聞書評倶楽部より転載