2016年12月26日を境に、東芝の株価は暴落した。443円をつけていた株価はつづく3日間で259円まで下げたのだ。
それまで東芝株の上昇率は年間で70%を超え、日経平均銘柄で第2位を誇るほどだった。その日本が誇る優良企業が一気に奈落へと転落したのだ。見得を切る暇もなかった。
この株価暴落はNHKによる巨額損失計上の報道がきっかけだったが、じつは2008年から東芝の原発ビジネスに疑いの目を向けていたメディアがある。月刊FACTAだ。
同誌は、向こう傷を問わない総合情報誌として2006年に創刊された。経済界の巨悪を追う調査報道を得意としているため、新聞や雑誌の経済記者必読誌としてつとに知られている。
本書はそのFACTAに掲載された27本の東芝関連記事と、編集長である阿部重夫氏が本書のために書き下ろした記事で構成された芯のある本だ。収録されている何本かの記事を追ってみれば、すでに2010年5月号ではテキサス州の原発プロジェクトが暗礁に乗り上げていることを伝え、2012年2月号では東芝がウェスチングハウスに舐められていることも指摘している。
これらの記事の執筆は現役の新聞記者など十数名が担当しているといわれる。彼らは自紙では書けない翳のあるネタをFACTAでぶちまけているのだ。そのじゃじゃ馬たちを御する阿部編集長自身が書き下ろした後半が本書の更なる読みどころだ。
原発ビジネスの闇に切り込むだけではない。「核オプション」と呼ばれる、日本が将来核武装するための知られざる核物質保有の政治メカニズムまで、淡々と筆をすすめるその姿は鬼気迫るものがある。
阿部編集長の文章からは怒りや怖れは感じられない。むしろ本書は東芝だけではなく、日本の原子力行政や電力業界が崩れ落ちていく最中に書かれた中間報告書という独特の雰囲気をもっているのだ。
※週刊新潮より転載