子どものいない者、あるいは遠い昔に子育てを終えた人からすると、PTAは秘密結社のように見える。子を人質にとられた親が、学校と教育委員会に労働力を捧げるようなものだ、と思っていた。
杉江松恋はフリーランスのライターで主にミステリ小説の評論を書いている。身の丈は180センチを超し、体重は100キロオーバー。トレードマークは金髪に髭にサングラス。それなのに話し方は優しく論理的で腰が低いので、かえってその筋の人に見えてしまう。つまり、あまり関わりになりたくない雰囲気の人だ。
ただ仕事柄、平日の昼間は家にいるし、好奇心は滅法強い。子どもが通っている小学校にも機会があれば顔を出していた。そんな姿でうろうろしていれば当然目立つ。意外と真面目そうだし、どうだろうということで、PTA会長の白羽の矢が立った。すったもんだはあったものの、杉江は3年間、区立桜庭台小学校のPTA会長を務めることとなった。
サラリーマン生活も長かった杉江のこと、一般常識は持ち合わせていたが、PTAにはPTA独自の常識が存在していた。本書で上げられたその常識はなんと35個。
PTAの規則は学校によってまちまちで、統一のルールはない(常識その1)から始まり、参加は任意で(常識その3)行政組織として「官」へ協力することがあらかじめ盛り込まれており(常識その16)子どもの入学から卒業まで、しかるべき点数分の役割分担を求められる学校がある(常識その32)など、傍からは知りえないことが満載されている。
1年目は前任者の仕事の踏襲だったが、2年目からは理不尽だと思うものは改革していく。その姿勢がかっこいい。伴走する校長ともウマがあったことが大きかっただろう。
子を介在させているとはいえ、PTAも人と人との信頼で成り立っている。あまり怖がらず、違う世界に飛び込んでみるのも面白そうだ。(週刊新潮5月25日号より転載)
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最近、藤原審爾の傑作『新宿警察』シリーズ10巻を杉江松恋が監修して復刊。その昔、夢中になって読んだっけ。