『廃墟遺産』あったかもしれない風景に想いを馳せて読む

2017年4月26日 印刷向け表示
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廃墟遺産 ARCHIFLOP

作者:アレッサンドロ・ビアモンティ
出版社:エクスナレッジ
発売日:2017-03-16
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巨大な廃墟はスキャンダラスでセクシーな匂いを発している。だからか、縁もゆかりがなくとも、大きいという理由だけで、建造された経緯を調べ、廃墟となった理由を粗探したくなる。

当初はどの計画においても、卓越したリーダーの大きな計画と巻き込まれた沢山の関係者の想いがあったのだろう。しかし、当初の計画から予測できなかった出来事やトラブルにより実現しなかったがために、そこにあったかもしれない風景は、永遠に計画に関わった人たちの幻想のまま終わった。建築されずに終わったテーマパーク、建築されたが一度も使われなかった地下鉄、人が住み着かないゴーストタウンとなった都市計画、人類の輝かしい歴史として、残ることはない。

著者は建築家であり大学教授であり、ミラノ工科大学でインテリアイノベーションリサーチ研究所のリサーチ・チームを運営している。研究所で廃墟の形式的な種類による分類を行ったところ、有効性が低く意味もなかったそうだ。そこで、文学的な視点による解釈で、失敗に至らしめた思考による廃墟の分類を行った。建築としての失敗というより、建築前の計画と建築後の運営に問題があることがほとんどである。特に政治や経済が絡んだものは、規模が大きい。

特にインパクトがあるのは、中国が絡んでいる計画だ。規模感、そして当初の計画と実際の予実さが桁違いである。

2015年の発表で世界で一番物価が高いと言われているアンゴラの首都ルアンダ、そこから20km離れたところに建設されたキランバ新都市は、延床面積54k㎡(世田谷区が58k㎡)、8階建ての建物が750棟、10校以上の小学校、100軒分ほどの店舗スペースがつくられた。

スピード感は神がかっており、たった3年足らずで建設された。50万人の住民を受け入れる予定で建設され、現状で82000戸の住宅が造られているが、現在はたった220戸しか売れていない。計算するのも憚られるが、空き家率99.6%強である。街にはスーパーマーケットは一軒しかなく、食物を買うことさえままならないようだ。

この計画の背景には、中国の石油利権獲得とアンゴラ政府の住宅不足問題解消の選挙公約があった。しかし、物価向上によりアンゴラ市民にとっては手の届く代物ではなく、今も市民の大半は、現在でも電気も飲料水もままならない遊牧民のような生活環境で過ごす日々である。

中国国内でも、理論上100万人の住居を供給できるだけの建物があるカンバシ新区、パリをコピー・アンド・ペーストした広廈天都場などが崇高な写真とともに紹介されている。

震災後に壊滅的な被害を受けたイタリアの街が、当時の市長の強力なリーダーシップのもと、パブリック・アート作品を街中に設けた。観光客を誘致するためである、約半世紀前のことであり、先駆的なまちづくりの事例である。

一時的には人気の観光スポットとなったが、今では街と建物が調和しない異質で中途半端なアート作品が点在した残念な街となっている。そして、50年をたった今も、定まりきらない街のビジョンを探し求めている状況である。

本書は廃墟の観光案内や写真集ではないため、現存しない廃墟も含んでいるが、そのうち過去に独立国家として存在しようとした海上の建造物があった。 

一人の技師により1966年に建造され、1969年に警察によりイタリア海軍により合計527kgのTNT火薬を使用して、爆破された。数十年後に「無邪気さから生まれた罪だった」とインタビューに答えているが、この挑戦は今もイタリアのクリエーターを刺激している。

現存する自称独立国家も登場する。第二次世界大戦時に建造され、放棄されていた海上要塞を占拠したシーランド公国である。

国家として承認している国はゼロだが、人口は5人、海上に住み続けていることに驚きである。
 

この他、共産党のプロパガンダ目的でつくられたビル、30年間建築中の北朝鮮に現存するホテル、工事が中断され、フェスの会場に使われた原子力発電所なども登場する。

選ばれた廃墟はいずれもが写真には映らない計画者の思考回路と歴史のコンテキストが浮かび上がってくるものばかりだ。そこにあったかもしれない風景や人々の生活をイメージしながら、現実の姿を見て、そのギャップを頭のなかで楽しむことができる。同時代に生きる私たちだけに与えられた、思考実験用の時限付きの遺産とも言える。失笑・嘲笑の対象だけにするにはもったいない。

※画像提供:株式会社エクスナレッジ

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ピーター・ティールも海上国家の建造計画に投資している。レビューはこちら 



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