人は見た目が、何パーセント?『顔ニモマケズ どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』
「人は見た目が9割」「人は見た目が100パーセント」「美貌格差」……その内容はさておき、こうした本やドラマのタイトルは多くの人が「見た目」に関心があることの表れだろう。
では、もしも顔などの見た目に大きなあざや変形などの目立つ症状がある場合、ネガティブな人生が約束されてしまうのか?
本書は、そうした症状をもつ「見た目問題」の当事者9人へのインタビュー集である。インタビュアーは、『夢をかなえるゾウ』や『人生はワンチャンス!』などミリオンセラーを繰り出してきた作家の水野敬也さん。じつは思春期の頃、自身の顔のむくみを異様に気にして、「醜形恐怖」という強迫観念に苦しんだ経験がある。
顔に症状をもつ人たちが、人並み以上の苦労や理不尽を味わってしまうことは想像に難くない。でも、読みながら「すごいなあ、賢いなあ」と、思わず何度もつぶやいてしまった。本書に登場する人たちは、悩みながらも自分の道をきちんと選び取り、自分で居場所をつくりだして生きているからだ。
たとえば、口唇口蓋裂(唇や上あごがつながっていない症状)の女性は、中学でいじめを受けて「死んじゃおうか」と思うまでに追い詰められている。しかし、アート系の高校に進学したことで超個性的な同級生に囲まれて、「私、すごい普通だからこのままだと埋もれてしまう」と逆に焦るほどになったという。
眼球の腫瘍で片目をなくした男性は、就職活動の面接で目のことが大きな壁になる。そこで「第一印象の比重が大きい面接は、自分向きのシステムではない」と考えてインターンで働くところを見てもらい、みごと内定を勝ち取っている。
本書は写真もたくさん掲載されているのだが、リンパ管腫の男性が大好きなマラソンをしているカットは「お、かっこいい!」と思うこと間違いないし、パラリンピック水泳代表になったアルビノの女性も、努力してきた誇りがにじみ出るような飾らない笑顔がとてもすてきだ。
それぞれが自分の好きなことを見つけて打ち込んでいる姿は「無理して前向きに頑張っています」という力みはなくて、なんとなく親しい友人のSNS投稿でも眺めているような気分になってくる。
そう、「障がいや病気のある人が頑張って、健常者が感動する」という「美談」とは、本書はちょっと違う。みんなすごいんだけど、みんな「普通」なのだ。「困難を乗り越えた」「劣等感を克服した」というよりも、「うまく付き合っている」というかんじ。見た目の症状でつらい思いをすることもあるけれど、折り合いをつけながら、時にちょっと気持ちが揺れたりもしながら、でもきちんと自分の人生を歩いている。
事故などで顔面を損傷したり、やけどを負ったり、病気の治療で脱毛することなどは、誰にでも起こり得る。もし私も突然当事者になったなら、おそらく最初はその自分を受け容れられずに引きこもるだろう。それから、徹底的に治療や症状を隠す方法を模索するに違いない。でもそのいずれも不可能だと悟ったら、まわりの人たちには「憐れむでもなく、気にするでもなく、これまで通り普通に接してもらいたい」と、強く望むのではないか?
先ほどの片目のない男性が高校生の時、電車で前に座った男の子から指を差されて「あのおじちゃん、目がないよ」と言われたそうだ。もしあなたが彼の友人でその隣にいたなら、どんな態度をとるだろう? 「気にしないで」と慰めるのか、それとも男の子を注意すべきか?
実際にその時一緒だった友達は、「お前、おじちゃんって言われとるぞ」と爆笑したそうだ。つまりその友達にとって彼の「片目がない」ということは、「おじちゃん」と言われることよりも全然気にならないことだったのだ。気の置けない仲間だからこその反応と言っていいだろう。本書に登場する人たちは、周囲の人たちとよい関係を築いていることも印象的だ。
もちろんそこに至るまでには、それぞれに葛藤があったに違いない。二十歳で脱毛症になった女性は、今でこそ「白髪を気にしなくてもいいし、ムダ毛の処理もしなくていい」と明るく笑えるエネルギッシュなお母さんなのだが、初めてかつらをつけて会社に行った日は、「仕事から家に帰ってきたら死んでいいことにしよう」と自分に何度も言い聞かせたという。
顔にあざのある男性も、「私のような人間から話しかけられても誰もうれしくないだろう」と人に話しかけられなくなり、大学も中退して引きこもってしまった。そのことを「独りぼっちで海の底に沈んでいくような感覚」と語っているが、その後の自転車旅行やホームレス支援活動、そして今の福祉関係の営業職というアクティブさは、ご本人の「一番下に落ちれば、底を蹴って上に上がる」という言葉を体現している。
本書のタイトル『顔ニモマケズ』は、言わずもがな、宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」からとったものだろう。「雨ニモマケズ」の最後はこう結ばれる。
―― サウイフモノニ ワタシハナリタイ
自らが醜形恐怖に苦しんだインタビュアーの水野さんは、その苦しさが忘れられなかったから、本書を書こうと思い立ったのだろう(ちなみに本書の著者印税は、見た目問題の解決を目指すNPO法人に寄付されるそうだ)。きっと本書のタイトルも、この9人の話を聞きながら「自分もこういう人になりたい」と感じてつけたのではないか……?
本書を読めば、あながちこれが考えすぎではないことに、納得してもらえるだろう。だって私も「こういう人になれたらなあ」と感じた言葉が、たくさんあったから。
「顔に症状がある人生と症状がない人生を選べるとしたら、どちらを選びたいと思いますか?」という水野さんの質問に、動静脈奇形の女性が長考の末に出した答えを、このレビューの結びとしたい。
もし、今の状態が保証されるなら――子どもがいて、主人がいて、顔の症状があったからこそ出会えた人たちとの関係が保証されるなら――顔の症状はないほうが良いです。ただ、今の自分になるために、この顔の症状が必要とされるなら……それはあって良かったと思います。
じつは自己啓発本って怪しいニオイがするようで読んだことがなかったのですが……すみません、食わず嫌いでした。刺さる言葉もたくさんあって、特に「人生を変えるために必要な2つのこと」は、納得。
こちらのシリーズも、偉人の格言やエピソードなど読み応えがあってびっくり。食わず嫌いはいかんですね。
顔を硫酸で焼かれた女性たちの話が、とにかく辛かった。東のレビューはこちら。