優れた科学読み物は大人の絵本である。
量子論や分子生物学などの先端科学は、専門用語を理解し、わずかな時間、記憶するだけでも素人にとっては難しいものだ。中学高校で学習したはずの絶対温度やプラズマという言葉ですら、あやふやにしか覚えていないことが多い。そこで科学者たちは模式図やグラフ、写真を使って必死に説明しようと試みる。結果的に科学読み物は、小説やビジネス書などと比べるとはるかに絵本のような体裁になっていくのだ。
本書はその好例である。実に丁寧に、光とは何か、惑星はなぜ惑う星と呼ばれるのか、ブラックホールの正体とは、宇宙の年齢は何歳か…などについて、大人が子供から聞かれたときに適切に答えることができるよう、分かりやすい言葉と豊富な図版で説明を試みている。
それでも、科学書を読み進めることは難しい。そもそも日常生活に全く関係のない宇宙論などを読む理由が見つからないのだ。そこで本書はなぜ宇宙は暗いのか、という疑問を読者に投げて、読む意欲を増す工夫をしている。
夜が暗いのは当たり前じゃないかと思う人が多いだろう。しかし、科学者たちは数百年前からこれを不思議に思っていた。無限の宇宙には無限の星があるはずだ。その光の全てが地球に届くなら、夜も明るいはずなのだ。
何人もの科学者がその謎に挑戦してきた。そのためには星の寿命を知る必要があり、宇宙の広さも推定する必要がでてきた。実際に宇宙の暗さを測定し、望遠鏡を使って最も遠い星を観測しなければならなかった。
本書の醍醐味は、科学者たちが数百年かけて結論にたどり着く過程の面白さにある。子供たちにとってはわくわくする科学推理小説に思えるであろう。
※産経新聞書評倶楽部から転載