昔から、休み明けは学校に行きたくないもの、と相場は決まっていた。大人だって、きっと大して変わらないだろう。読みさしの本があれば最後まで読みたいし、クライマックスのゲームはさっさとクリアしてしまいたいものだ。でも「不登校」ときくと、途端にドキドキしてしまう。それが、悪いことだと教えこまされてきたからだ。
ここ数年、不登校は増加傾向にあると報道されている。議論百出だが、解決策はなかなか見つからない。先日もフリースクールを義務教育として認めようという議論がなされたが、法制度の変更には至らなかった。一方で、本書の主張は力強い。「親の力で子どもの心に自信の水を満たせば、不登校は治る」と断言しているのである。
しかも、その主張は実証研究に基づいている。教育現場で読まれる雑誌『教育技術』の編集長の薦めでまとめられたというから、その信頼性は高い。前著『不登校は99%解決する』の読者レビューは300件以上あがっており、驚くほど高い評価を得ている。是非のぞいてみてほしい。その前著から5年。本書にこめた著者の思いはどこにあるのだろうか。
子育ては親の役目です。子育てを他人任せにすることはできないのです。本書は、前著をベースに、この5年間の実証研究で深めたコンプリメントトレーニングの知識や技術をまとめました。是非ともこれを活用して、コンプリメントを子育てに用いてほしいのです。 ~本書「プロローグ」より
ここで、コンプリメントとは何かについて、説明したい。表紙には「子どもの心を育て自信の水で満たす、愛情と承認の言葉がけ」と書かれている。そしてオビではさらに具体的に「その子のよさを認め、自信を取り戻させる言葉がけ」と言いかえられている。伝わるだろうか。より深く理解するには、具体的な事例にあたる必要がある。
本書の第1章で「不登校や身体症状を解決した35の事例」が紹介されている。自信の水が枯れたときの症状は、不登校だけではない。起立性調節障害(起きられない)、いじめ・暴力等の反社会的言動、心身症から起こる頻尿・皮膚炎・パニック障害など多岐にわたる。私が冒頭で書いたレベルの「学校に行きたくない心理」とは異なり、非常に深刻なものだ。
小4のGW明けから不登校になり、ほぼ2年間、友達を拒絶し、パソコン三昧の小学生。幼稚園の頃から登園しぶりがあり、遅刻や欠席を繰り返しながら小学3年生の9月から不登校になった子ども。恐ろしい目つきで「おまえなんか消えろ!」と怒鳴ったり、物を壊したりして家庭崩壊になった事例など、当事者による生々しい手記の数々がそこにある。
第2章では、その予兆と具体的な身体症状が、事例とともにまとめられている。この章を読むと、周囲の教師や医師がどのような支援をするのかがわかる。「ストレスを与えず、好きなことをさせて良くなるのを待つべき」という支援を受けて、傷口を深めた例も多いようだ。基本的には、何も手を打たずに時間が経てばたつほど、事態は深刻になるという。
第3章では、コンプリメントの基本の考え方をまとめ、第4章ではその課題と今後のプランについてまとめられている。ここで私の心をとらえたのは、コンプリメントが子育ての負の連鎖を断ち切ると書かれていた点だ。愛情豊かに育てられればそういう子育てができるが、そうでなければ難しいという。貧富の格差と同じように、負の連鎖を断ち切らなければ「自信の水の格差」は広まるばかりなのだ。
実際に子育てをしてみると、叱ることの連続でつい自分を責めてしまうものだ。また、褒めるときでさえ、心理操作しているようで、なんとなく後ろめたさを感じてしまう。本屋さんに行くと、叱る子育てと褒める子育てを薦める本がそれぞれ同じように並んでいて、どちらを読んでも答えは出ない。なんとも、もどかしい。
しかし、この本を読めば、そんな窮屈さからも自由になれる。子育てとは、子どもの心のコップに自信の水を入れ、子どもをあるべき姿に成長させることなのだということが腑に落ちるのだ。世間的な「いい子」の基準は無数にあるが、叱ったり褒めたりして、そこに導くことが子育てではない。子どもの人生は子ども自身の物なのだ。
コンプリメントとは、子どもの「良さ」をみつけて、「~の力があるね」とか、「私はうれしい」という愛情こもった承認を与え続けることだという。叱るのも褒めるのも枝葉末節で、コンプリメントこそが幹なのだ。自信の水が満ちていれば、子供は自ら価値を選んで、自由に枝葉を伸ばしていくのである。
子育て法は、実は誰も知らないのです。教えてもくれません。私もずっと気になっていたところなのです。ですから、どうしても子育てについて書いてみたかったのです。親に必要なのは、子育ての理論ではなく、実際にできる子育てでなくてはなりません。その子育て法がコンプリメントトレーニングです。 ~本書「エピローグ」より
学校で教えてくれないものは山ほどある。その多くは、社会に出て実践の中で学んでいく。子育ても、とにかく実践するしかない。就職を控えた学生と同様に、結婚を控えた若者も漠然とした不安を抱えている。育った環境が違う二人で手探りで子育てをすることを考えると、社会で生きる術を身につけるよりむしろ、その難易度は高いとさえ言える。
私は、いつか「子育てできるという自信」が身につくものと信じ、ずるずると20代を過ごした。保育園の問題や、経済的な問題ばかりではない。親となる心の準備がなかなかできなかった。本書の「自信の水」という考え方は、その準備に役立つばかりか「不安そのもの」への理解を深める。そしてそれは、確実に人生行路の武器になる。20代の私に、ぜひ読ませたいと思った。