パンク生誕40周年と言われている年にふさわしいPUNKなビジネス書が誕生した。その名も『BUSINESS FOR PUNKS』(ビジネス・フォー・パンクス)。全世界でクラフトビールブームを牽引しているクラフトビールのメーカーの「BREWDOG(ブリュードッグ)」創業者ジェームズ・ワットが書いた刺激的な経営の本である。PUNKが大好きでクラフトビールにはまっている私にとって、これは読むしかない!と思える本だった。
今年はPUNK40周年ということもあり、PUNK関連の本がたくさん出版されている。SEX PISTOLSのヴォーカル『ジョン・ライドン新自伝 怒りはエナジー』に、PUNKの女王『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』などがそうだ。PUNKなビジネス書『BUSINESS FOR PUNKS』を含め、この3冊に共通するのはとにかく分厚い本だということである。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの自伝は624ページ、ジョン・ライドン新自伝は609ページ(しかも2段組み)とすさまじいボリュームの本だ。『BUSINESS FOR PUNK』はこの2冊に比べればだいぶ薄い390ページだが、なかなかボリュームのあるハードカバーの本にも関わらず、スピン(しおり)がついていないところがPUNKである。
PUNKといえば初期衝動が大事だ。楽器は弾けなくても、とにかく音楽がやりたいという衝動に身を任せて、簡単なコードの繰り返しに歌詞をのせて、数々の名曲が生まれた初期PUNKのように、この本も読みたいと思ったら、その衝動に身をまかせて、一気に最後まで読めということなのだろう。そして一気に読めるおもしろい本であるという自信もあるのかもしれない。まんまとその挑発にのって、私は読み始めたら最後まで一気に読んでしまった。
内容もPUNKのようにとても刺激的だ。起業論では「人の話は聞くな、アドバイスは無視しろ」「嫌われ者になれ」「永遠に青二才でいろ」と、「Punk is attitude. Not style.」といったクラッシュのジョー・ストラマーのように、起業におけるアティチュード(姿勢)を示したかとおもえば、「頭を下げ、バーターでも裏技でも何でも使え」とけっこうむちゃくちゃなことをいっている。
その一方で、本書で一番大事なアドバイスとして、「財務の知識は必要だ」と、とても現実的なこともしっかりと書いているのが憎いところだ。「キャッシュこそ絶対王者だ」など、経営者の本ではあまりみかけない、財務の話にかなりのページを割いているのが、この本のユニークなところである。なかでも機会費用の考え方はお金のことだけでなく、時間の使い方にも応用できるので、とても参考になった。そのあとに続く過激的なマーケティング手法の話もおもしろいが、あえてそこには触れないでおこう。
それよりも最高だったのが4章の「新時代の破壊的パンクのためのセールス論」だ。この章はたったの2ページしかない。そこには3つのルールがかかれているだけだ。あたかも3コードだけで曲を作ったラモーンズのようではないか。これこそまさにPUNKである。この章の最後に書かれている言葉がまた最高だ。「販売であれこれ悩む必要はない。ほかのことでいい仕事をすれば、勝手についてくる」間違いない。
とにかく最高にPUNKな1冊である。起業を考えている人には特におすすめだ。経営者の本でここまで刺激的でおもしろく、それでいて実用的な本はあまりないと思う。ぜひ一度読んでほしい。本の話とは関係ないけれど、ブリュードッグのPUNK IPAはめちゃくちゃうまいので、飲んだことない人にはぜひ飲んでもらいたいと思う。この本を読んでから、私はこの会社の出すビールの虜になっている。最後に、著者の言葉を引用してレビューを終わろう。
本書でぼくは、人のアドバイスは聞くなといった。それは、ここに書いたことすべてに無条件で当てはまる。だから、あなたがもし本当に賢明な人なら、本書全体を無視するべきだろう。参考にするも、しないも、好きにしてもらっていい。ただし、何か行動は起こしてほしい。
それから、とにかく楽しむことを絶対に忘れてはいけない。