世の中には「知っておくべきだが、知らされていない事実」がたくさんある。本書が伝えるのは、日本で過酷な労働を強いられている「留学生」や「実習生」の実態である。出稼ぎベトナム人と、彼らを食い物にする日本語学校、低コストで彼らを雇う企業という三すくみの構図がメインだ。また、中国人や日系ブラジル人減少している理由や、外国人介護士が定着しない理由についても書かれている。本書に書かれていることは、日本人として「知っておくべきこと」の一つだと私は強く感じた。
本書によると、日本で暮らす外国人の数は、昨年1年間で約11万人増え、過去最高の約223万人に達した。こうして増加した外国人の半分以上は「実習生」と「留学生」として日本にやってきているそうだ。実習生・実習生とも、前年比15パーセントの増加。まさに、急増である。なぜ、そうなったのか。本書によると、その答えは出稼ぎである。日本の労働人口は減り続けており、とりわけ体力が必要な仕事は働き手が不足している。「実習生」と「留学生」として来日し、単純労働の担い手になっているそうなのだ。
著者は、2007年から「外国人労働者」をテーマにした取材を始めたという。当時、著者は、海岸沿いにポツンとある殺風景なホタテ加工場で、20代の中国人実習生約100人が黙々とホタテの殻剝きをしている光景を目にしたそうだ。「実習生なしでは、この加工場、いや村はもうやっていけない」加工場の経営者が漏らしたこの言葉に、少子化にともない、今後こういった職場が日本のあちこちで増えていくに違いないと悟ったという。それから、10年。
あのときの私の予感は現実のものとなった。
(中略)
コンビニは24時間オープンしてもらいたい。
弁当はできるだけ安く買いたい。
宅配便は決まった時間にきちんと届けてもらいたい。
新聞は毎朝毎夕決まった時間に配達してほしい。
しかし、私たちが当たり前のように考えているそんな“便利な生活”は、もはや低賃金・重労働に耐えて働く外国人の存在がなければ成り立たなくなっている。いや、彼らがいなくなれば、たちまち立ちゆかなくなる。
そうした実態は、日本人にほとんど知られていないのではなかろうか。
そうなのだ。知られていないのだ。それが、第一の問題ではないか。知れば、多くの日本人は恥ずかしいと思うだろう。新聞社も日本人学校も、経営者たちは一体何をやっているんだ。それで平気なのか。と思うに違いない。著者には、全編を通じて彼らに寄り添う姿勢が垣間見られる。とにかく、この実態を多くの人に知ってもらいたい、そしてこの不幸な状況を断ち切りたい、と切実に願っているのだと思う。私も、こんな現状がまかり通っていることが、日本人として恥ずかしくてたまらなくなった。
弁当の製造工場、宅配便の仕分け現場、そして新聞配達・・・・・・深夜や早朝の就労が多いそれらの現場に、日本人はほとんどいない。日本人学校によっては、アパートを借り上げ、そこを寮として彼らを狭い部屋に彼らを押し込め、働き口を斡旋し、賃金を学費として吸い上げるという搾取の構図があるようだ。日本人との触れ合いも少なく、語学力を高めるのも難しい。そして、来日前にブローカーから吹き込まれた「月20~30万円の仕送り」など夢のまた夢だ。
多くの外国人は、夢をもって日本にきている。搾取され、追い込まれ、ある者は静かに日本から去り、ある者は不法就労に走り、なかには凶悪な犯罪を起こす者もいる。冒頭で書いたように事態は急速に進展している。だから、オビにある「彼らの静かな復讐が始まっている!」という警句も、本書を手にする一つのキッカケになってもよい。急激に迫ってきている危機だからだ。ただこれが、安直に外国人を忌避する姿勢につながってはいけない。「おわりに」で、欧州における移民とテロの問題にふれた後、著者は次のように書いている。
在日ベトナム人などの犯罪が急増している背景については第6章で述べた。彼らが犯す「窃盗」や「万引き」は、欧州が直面するテロの脅威とは次元が違う。しかし、外国人による社会に対する復讐という意味では、スケールこそ違っても構図は同じである。
今後も、日本で働く外国人は間違いなく増えていく。日本に住み続け、移民となる人も出てくるだろう。彼らにこの国で、いかなる役割分担を求めるのか。どうすれば優秀な外国人を日本に迎え入れるのか──。長期的な方針と戦略を立てるのは今しかない。 ~本書「おわりに」より
新聞や宅配や弁当の向こう側に、こんな世界が広がっていたなんて、私は知らなかった。今こうしている間にも彼らベトナム人たちは、狭いアパートの一室や単純労働の現場で、日本への反感を募らせている。2015年の彼らの検挙件数は3315件にも達し、前年から犯罪が割以上も増加しているそうだ。対策は急務である。私たちは、この不幸を断ち切るための根本的な方法を一日も早く考えなければならない。しかし、彼らの労働で支えられている企業や利権をむさぼる官僚にとって、それは都合が悪いことだ。スポンサーを気づかうメディアでは、報道すらされにくいだろう。だから私たちは、日々、勇気ある告発本を渉猟する必要があるのだ。
個人的な経験では、文庫や新書でそういった情報に出会う機会が意外と多い。先日、紹介させていただいた『「子供を殺してください」という親たち』(新潮社)も、そういう本だった。現場で真正面から精神障害者の問題と闘ってきた著者が、その問題点を一般の人に知ってもらうためにまとめた本だ。その後も、相模原の事件などグレーゾーンの患者が起こす悲惨な事件が相次いでいる。我々は、個別の不幸に涙するだけでなく、本を読んで問題の根っこを把握する必要がある。そうでなければまた、不幸な事件が起きてしまうからだ。
私はこういった本を、書店の売場では、棚に一冊だけささった状態で見つけるケースが多い。宣伝のしにくさもあるのだろうか。ドーンと展開されているベストセラーだけでなく、こうした棚から、ゴリゴリとした歯ごたえのある「やや当たり障りのある本」を選び出すのも書店に行く愉しみの一つである。以前、「想像力と数百円」という文庫の売り文句があった。3回の買い物のうち1回でも、「知っておくべきだが、知らされていない事実」が書いてある本に出会えれば、十分、元が取れると思うのだが、いかがだろうか。