新潮新書の『言ってはいけない』が売れに売れています。その昔「10万超えると業界人なら知っている本。周囲に購入者が多くなると50万越え、喫茶店で隣に座った人が読んでいるようになったら100万部」なんてな指標を勝手に作って愉しんでいた時期がありましたが、これは冗談にしても周辺で「買った」「読んだ」という声が聞かれるようになってきました。(※HONZのレビューはこちら
さて『言ってはいけない』はどんな人に読まれているのでしょうか? 発売からの読者クラスタがこちら(WIN+調べ)。新書ということもあり、男性・50代が圧倒的です。
続いて、一緒に買われている商品を見ていきます。『言ってはいけない』の購入者が2014年7月以降に買った銘柄の上位10作品がこちら。驚くことに、すべてが新書でした。
RANK | 書名 | 著者名 | 出版社 |
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1 | 『大放言』 | 百田 尚樹 | 新潮社 |
2 | 『家族という病』 | 下重 暁子 | 幻冬舎 |
3 | 『京都ぎらい』 | 井上 章一 | 朝日新聞出版 |
4 | 『下流老人』 | 藤田 孝典 | 朝日新聞出版 |
5 | 『大世界史』 | 池上 彰 | 文藝春秋 |
6 | 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』 | エマニュエル・トッド | 文藝春秋 |
7 | 『新・戦争論』 | 池上 彰 | 文藝春秋 |
8 | 『人生を面白くする本物の教養』 | 出口 治明 | 幻冬舎 |
9 | 『人間の分際』 | 曽野 綾子 | 幻冬舎 |
10 | 『戦略がすべて』 | 瀧本 哲史 | 新潮社 |
ただ、6月以降の購入者に絞って年代を見ると変化が見えてきます。全期間で70%を占有していた男性層が55%まで低下、売上が伸びるに従って女性読者を伸ばしてきています。特に売上伸張率の高い40代〜50代の女性読者が併読しているものを見ると1位はダントツで『家族という病』。家庭をもっており子育て、親との関係などに興味や悩みを抱える方々のようです。5月末にはNHKの番組で取り上げられるなど露出も増加中、ここから先より新書読者以外にも広がっていくことでしょう。
続いて、併読されている本のベスト10を見てみます。このとおり、新書ジャンルで話題になっている本が次々に読まれているということがわかります。それではこの併読本の中から注目の書籍を紹介していきたいと思います。
今回の併読本、新書の率が非常に高い一方で意外に小説読者が多かったのが印象深いポイントでした。黒川博行さんの『後妻業』は映画化に伴い文庫化され注目をされています。実際にあった事件にも酷似しているということで発売時からとても話題になっていた1冊。HONZ読者にはオススメの小説です。
「家族」をテーマにした書籍が多く併読されていますが新しいものの中ではこれが一番読まれていました。家族の問題が子育てから親の介護に大きくシフトしてきているのを売れ筋商品のリストから感じます。親を捨てて楽になることができる。という著者の提言は今後どう読まれていくのでしょうか?
6月発売の新書の中でも注目度の高い1冊。同和対策事業終了後も決して終わりに向かっていない部落差別問題を冷静な視点で解き明かしています。
劇的な引退劇後、その模様を描いた本が続々と出版され始められています。こちらは日経新聞記者がその真相に迫った一冊。引退劇までの様子や年表、インタビューなどもおさめられており、アーカイブとしてもっておくにも便利な1冊になっています。
遺伝をテーマにした本の併読書のはずですが、読者が選ぶ本として多かったのはどちらかというと歴史の本でした。そんな中で読まれていた遺伝関連本がこちら。遺伝的差異が経済発展の違いを引き起こしているという説。賛否両論が渦巻いているようですが…はてさてどう読みますか?
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難しいテーマに簡単に触れられ、その入り口を知ることができるのが新書の最大の魅力です。一冊手に取って終わらせるのではなく、さらに一歩の深堀りしてみることでぐっと世界は広がるはずです。『言ってはいけない』の巻末には硬軟取り混ぜ多くの参考文献リストが掲載されています。ぜひぜひこの中から、もう1冊の読書をしてみてください。