本書のタイトルをみて「えー、何でこんな本をHONZで紹介するの?」と思った方、ちょっと待った。本書は凡百の嫌中書とはわけが違う。なにしろ書いたのが、あの谷崎光である。ここに注目してほしい。
彼女は小林聡美の主演で映画にもなった『中国てなもんや商社』という傑作ノンフィクションの著者である。(残念ながらDVD化されていない)
新卒でダイエーと中国の合弁商社に入社し、中国人の狡さ、強かさに驚いたあまり、会社を辞めて北京大学に入学、北京在住15年目になる作家だ。中国人の思考と行動を分析し、日本人へのアドバイスをし続けている。
そこに中国人に対する悪意はまったくない。むしろ呆れつつ尊敬していると言っていいだろう。この本にも書かれているが、長く住んでいるといつの間にか感覚が中国人ぽくなってしまい、あまりにも素直な日本人に対して怒りさえ感じることもあるようだ。本書のタイトルはその怒りが滲んでいるような気がする。
そもそも明治維新や敗戦があったとはいえ、国が滅んだことのない日本人と、何度も国がひっくり返った中国とでは度胸の据わり方が違う。
生き延びるためには、まず財産を増やすこと。一番強いのは「金」だ。国が崩壊すればその時の貨幣は紙屑になる。治安は悪化し、流通は止まり食べ物が無くなる。そんなとき「金」が命を救う。中国人たちは身をもって経験しているのだ。
合弁企業を起こした日本人が、中国人の共同経営者から裏切られたという話はよく聞く。「中国人は信用してはならない」と言われるが、そもそも「友人」という感覚が全く違うのだ。
彼らは親族や家族でも欺く。商業は戦いである。戦場で兵法を使うのは当たり前のことだと言い放つ。さすが偉大な兵法者をたくさん生んだお国柄である。
大勢の中国人観光客が押し寄せる今、日本人必読の本が紹介されている。清朝末に書かれた、いかに面の皮厚く、黒く生きるかの極意「厚黒学」の項を読むと目から鱗がハラハラ落ちる。厚黒学を簡単に説明すると
「我をもって人の本性とする」「人の心は本来、自分の利と欲望に忠実で黒い」「しかしそれを人に悟られてはいけない。『悪いこと』をするときは、仁義と道徳のオブラートで包め」
中級・上級レベルになると、さまざまな技を駆使するようになる。
●トラブルが起きてもうまく相手のせいにする
●自分は手をくださない
●ニセ情報を与えて混乱させる
●人同士を戦わせ、疲れたすきに漁夫の利を狙う
もし中国が崩壊し日本に押し寄せたら、というシミュレーションも本書では行われているが、これが本当にコワい…。ウブなだけの日本人からそろそろ脱却しようではないか。 (週刊新潮3月10日号掲載に加筆しました)
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技術者もろとも最先端技術も流出しているのだ。レビューはこちら
なんと『厚黒学』がごく最近復刊されていた。さっそく読んでレビューしようと思ったのだが、エグい…。ご興味のある方は、ぜひご自身の目で読んでください。