『性風俗のいびつな現場』支援か搾取か

2016年1月20日 印刷向け表示
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性風俗のいびつな現場 (ちくま新書)

作者:坂爪 真吾
出版社:筑摩書房
発売日:2016-01-07
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女性の貧困がメディアを賑わして久しい。働く単身女性の3人にひとりが年収112万円以下との統計もある。こうした貧困女性の中でも福祉の網から漏れ落ちた人々のセーフティーネットとして機能してきたのが性産業だ。

性産業の現場で何が起きているのかに迫ったルポは少なくない。本書でも母乳を欲しがる男性向けの風俗店や30分3900円で違法行為ありの激安風俗店、熟女専門店、他の風俗店では採用されない女性ばかりを集めた「地雷専門店」で働く女性や経営者が登場する。 

印象的なのは、地雷専門店の経営者のインタビューだ。同店では年齢や容姿は不問で幅広い女性に門戸を開く。生活の手段が限られた女性に稼いでもらいたいために、原則、応募者全員採用だ。スリーサーズが全て1メートル超えでも入店OK。福祉のみならず風俗の世界からも押し出された女性たちの受け皿として機能している。

とはいえ、性サービスでなく、容姿や年齢をネタとして消費する、女性としての尊厳を売るようなスタイルに違和感を抱く人も少なくないだろう。高邁な理念を掲げようが、結局は性の搾取に過ぎないとの指摘は免れない。支援か搾取か。古くて新しい問題が横たわる。

本書全体から透けて見えるのは、最後のセーフティーネットで稼ぐのも容易ではないという事実だ。わずか1000円のオプション料金(手取りは200円)で身体的精神的ダメージが小さくないだろう飲尿などの過激サービスを提供する女性も多い。

激安風俗店の世界で行われていることは、どう考えても非合理である。しかし、非合理であるがゆえに、そこに救われる人がいる

つまり、非合理なサービスを継続的に提供できるほど、差別や貧困、障害を抱えた女性が存在すると言っても過言ではないのだ。

著者が繰り返し指摘するように、これらは風俗の世界だけでは解決できない課題だろう。貧困女性の支援を風俗経営者がいくら唱えたところで、その声が届く範囲は限られる。

一方、性産業は社会福祉に携わる人からは敵視されてきた過去があるが、性産業を破壊することは可視化されにくい貧困層のライフラインを絶つことになりかねない。性産業が公的なネットワークより機能している側面もあるのは事実だろう。

本書が提示するのは、二項対立でなく、近くて遠かった性産業と福祉の連携の姿だ。一例として、風俗店の待機部屋での弁護士や社会福祉士による無料での生活相談の動きを紹介する。

風俗の現場で何が起きているのか。背景に潜む物は何か。そして解決に向けてできることは何なのか。貧困女性の悲惨さが地続きの社会問題として認知されつつある中、本書は一歩踏み込んだ世界を示してくれる。

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