あまりにおもしろかったので一気に読んでしまった。この本に書店員の矜持というものをみた。この本は現役の書店員にとって、宝物といってもいい1冊だろう。だからこそ、まずは多くの書店員に読んで欲しい。まちの本屋でもここまでのことができるのか!という驚きとともに、自分たちにもまだまだできることがある。そう思わせてくれる本だからだ。たくさんの書店員がこの本を読むことで、本屋が活性化されることを切に願う。また書店員じゃない人でも、この本は楽しめる。とくに本が好きな人にはぜひ読んでもらいたい。こんな書店員がいる本屋がちかくにあったら、絶対に通って本のことを話してみたいと思うはずだから。
読者の楽しみは、読者が自分で本を選択するところから始まります。そう、自分で選ぶ楽しみと喜びを味わうこともまた、読書の一部と言えるのかもしれません。
これを読んだとき、HONZの朝会を思い浮かべた。朝会というのは読んだ本ではなく、今月読もうと思っている本を紹介する場である。参加者はみな嬉々として、自分はこんな本を選んだよ!というのを、平日の朝に集まって語りあっているのだ。朝会はまさに本を選ぶ楽しみと喜びを味わう場となっている。本を自分で選ぶのは楽しい。読書というのは本を読む前からはじまっているのだ。
この本の著者の田口さんは、自分のお気に入りの本屋をつくるといいとお客さんに話しているという。これには自分も同感だ。行きつけの本屋をつくると、そのお店の平積み商品を見ることで、時代の空気や流行が見えてくる。また本屋は1日として同じ状態ではない。本との出会いというのは常に一期一会である。出会ったときがその本の旬であり、買い時だと私は思っていた。
しかし本の旬というのは、発売してすぐだとは限らないというのが、田口さんが恩師と慕う伊藤清彦さんの考え方である。さわや書店には田口さんの前に、伊藤さんという名物店長がいた。伊藤さんは盛岡という立地にありながら、様々な本を数千冊も売ったという伝説的な書店員だ。彼のことについては『盛岡さわや書店奮戦記』に詳しい。田口さんは伊藤さんの考えを受け継ぎ、さわや書店フェザン店という本屋で店長をしている。
さわや書店発のベストセラーは数多くある。古くは『天国の本屋』がそうだ。この店の「もっと若い時に読んでいれば・・・そう思わずにはいられませんでした」というPOPがきっかけで、発売から10年後に大ヒットとなった『思考の整理学』もそうである。そして映画化もされ、400万部の大ベストセラーとなった『永遠の0』もこの店がきっかけでベストセラーになった。『永遠の0』は1ヶ月たらずで単行本を1000冊売ったというのだから、脅威としか言いようがない。
ただこう言った話をするときに、数字ばかりが先行してしまうことに、田口さんは憤っている。数字のことばかりが強調されて、ほんとうに大事なプロセスに目を向ける人が少ないというのだ。本屋を耕し、客を耕し、旬のタイミングで本を仕掛けることで、さわや書店はヒットを生みだしているのだ。
「耕す」というのは、伊藤さんがよく使っていた言葉だという。農業の「耕す」と同じ意味である。お客さまとコミュニケーションをとることで、お客さまとの関係を耕す。また、本が詰め込まれた棚も、常に手を加え変えていくことで店を「耕す」。こういったプロセスがあって、「これだ」と決めたものがあったとき、大きなうねりが起こるというのだ。まちの本屋でもやろうと思ったときはやれる。そのことを田口さんはさわや書店フェザン店で証明している。
ということは、お客さまであるみなさんがきっかけで、全国的なベストセラーが生まれる可能性もあるということだ。まちの本屋で本を買い、書店員とコミュニケーションを取る。そうすることで、まちの本屋は耕されていく。そして、もしかしたら次のベストセラーはあなたが耕した本屋から生まれてくるのかもしれない。
本文でも紹介したさわや書店の名物店長だった伊藤清彦さんの著作。
京都の恵文社一乗寺店で名物書店員だった堀部篤史さんの著作。これも最高におもしろい。