『ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史』

2015年10月2日 印刷向け表示
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ヒトはこうして増えてきた: 20万年の人口変遷史 (新潮選書)

作者:大塚 柳太郎
出版社:新潮社
発売日:2015-07-24
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少子高齢化に悩むわが国では、ようやく人口政策の是非が議論され始めた。しかし人口問題は難度が高い。昨年「人口の世界史」(マッシモ・リヴィ‐バッチ)という人口問題を考える上で極めて示唆に富む良書が出版されたが、20万年の人口変遷史を記述した本書もそれに劣らない出来栄えだ。

20万年前(世界人口5千人、以下同じ)に、東アフリカで誕生したヒトの出生と死亡の原像は、生涯出産数が4.4程度で、生後1年間に4分の1近くが死亡し10歳までに半数以上が死亡、平均寿命は20歳ちょっとと推定されている。出アフリカは12.5万年前、地球全域への移住が本格化したのは6~7万年前(50万人)、ヒトは火を用いて環境を改変し、人口支持力を高めてきた。この過程で多くの野生大型動物(メガファウナ)が絶滅した。

定住と農耕が始まったのは1.2万年前(500万人)のことだった。定住により出生率の上昇と乳幼児死亡率の低下が同時におきた。文明が始まった5500年前(1000万人)から、都市が出現し農村部からの移入によって人口が集中するようになった。人口の集中は感染症のリスクを増大させた。中でも天然痘の致死率は約40%もあり、164年にパルティアからローマ帝国にもたらされた天然痘の流行では15年間で500万人(人口の1割)が死亡したようだ。文明の進展によって人口は増え続けたが、1800年ほど前(1.6億人)、第1の人口循環が生じて300~400年にわたり人口が減少した。その後再び増勢に転じて、中世の農業革命(技術の大衆化や技術革新など)により1200年ごろに3.7億人に達したが、第2の人口循環が生じて200年ほど人口は減少する。ペストに象徴される疫病が原因であろう。モンゴル帝国による交易圏の拡大は、同時に戦争と感染症の大規模化を招いたのである。

15世紀末に新大陸が再発見されたことで世界は劇的に変化する。ラテンアメリカ原産の農作物(トウモロコシやジャガイモ、キャッサバ、サツマイモなど)によって人口支持力が飛躍的に上昇し、また新大陸の先住民がヨーロッパから持ち込まれた感染症で大量死したため(16世紀に天然痘が5~6回流行)、300年間におよそ1000万人のアフリカ人奴隷が海を渡った。265年前(産業革命、7.2億人)、ヨーロッパで人口転換(多産多死から少産少死へ)が始まる。人口転換の前期には(多産少死により)人口爆発が生じたが、新大陸が吸収した(19世紀、ヨーロッパから6000万人が新大陸に移住)。

1950年に25.3億人であった世界人口は現在72億人を超えた。地球の人口支持力(環境収容力)は120億人とも言われている。アイパット「環境負荷I=人口P×豊かさA×技術T」という考え方など、読み終えて人類の行く末を深く考えさせられた。

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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