『ホワット・イフ?』一生懸命お茶をかき混ぜれば、沸騰させることが出来るのか?

2015年6月30日 印刷向け表示
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質問.一番近い太陽系外惑星に生物がいて、われわれと同等のテクノロジーを持っているとしましょう。今の瞬間、彼らが地球を見たら、彼らには何が見えるでしょうか?

──チャック・H

もうちょっとちゃんと答えてみよう。まずは……

通信や放送の電波

映画『コンタクト』のおかげで、地球人の放送メディアが発信することがらを異星人たちが傍受している可能性が取り沙汰されるようになった。残念ながら、その可能性は少ない。

問題は、宇宙はほんとうに広いということだ。

星と星のあいだで電波がどれだけ弱まるか、物理を使ってはっきりさせることもできるが、状況を経済面から考えれば、何が問題なのか実感できるだろう。つまり、あなたのテレビ信号がよその星に届いているなら、あなたは金を無駄に使っていることになるのだ。よその星まで信号が届くほど送信機の出力を上げれば高くつくし、それを受信した異星人が、送信に必要な電気料金を支払ってくれているテレビコマーシャルの商品を買うこともない。

全体像はもっと複雑だが、要するに、われわれの技術が向上するにつれ、通信や放送の電波が宇宙空間に漏れ出す量は減っている。巨大な送信用アンテナは次々と廃止され、ケーブル、ファイバー、携帯電話基地局のネットワークに置き換えられている。

われわれのテレビ信号はしばらくのあいだ検出可能だったかもしれないが(たとえ可能でも、たいへん苦労してのことだろうが)、それももう終わりに近づいている。テレビとラジオで虚空に向かって絶叫するかのように、われわれが強い信号を盛んに宇宙に放出していた20世紀終盤でさえ、信号は2、3光年も進めば検出できないほど衰弱していただろう。これまでに特定された、生物が居住可能な太陽系外惑星は数十光年離れたものばかりで、地球で流行っていたキャッチフレーズを彼らが今真似して使っている、などということはまずなさそうだ。

しかし、テレビやラジオの放送にしても、地球最強の電波信号ではなかった。早期警戒レーダーのビームにはかなわない。

冷戦の産物、早期警戒レーダーは、北極圏全域に地上ステーションと空中ステーションを張り巡らせたものだった。これらのステーションは1日24時間、週7日にわたり強力なレーダービームで大気を走査し、ときには電離圏でビームを反射させていた。軍の担当者らがエコーとして戻ってくる信号を常時モニターし、敵の動きをうかがわせる異常はないか、強迫観念的に監視していた。

これらのレーダーの電波は宇宙に漏れ出し、近くの太陽系外星人たちがいる方向にビームが向いていたときに彼らが偶然聞き耳を立てていたら、キャッチされたかもしれない。しかし、放送用のテレビ塔を時代遅れにしたのと同じ技術革新が、早期警戒レーダーシステムも不要にしてしまった。今日のシステムは(どこかにあるとすればだが)、電波の漏れははるかに少なくなっており(つまり、昔のやかましさはなくなっており)、やがて何か新しいテクノロジーに完全に取って代わられるだろう。

地球で最強の電波信号は、アレシボ天文台の電波望遠鏡のビームだ。プエルトリコにあるこの巨大な皿のようなパラボラアンテナは、レーダー送信機として機能し、水星や小惑星帯など、近くにある標的にぶつけて信号を反射させる。要は、他の惑星がもっとよく見えるように照らす懐中電灯のようなものだ(途方もなく聞こえるかもしれないが、そのとおり途方もないことだ)。

しかし、電波望遠鏡の信号はたまにしか発されないし、しかも細いビームでしかない。たまたま太陽系外惑星がビームに捉えられたとして、また、そのとき太陽系外惑星人たちが受信用アンテナを地球のほうに向けていたとして、彼らには電波エネルギーが一瞬のパルス信号としてキャッチされるだけで、そのあとはまた元の、何も信号がない状態に戻ってしまうだろう。

そんなわけで、地球を見ている異星人がいたとしても、アンテナを使ってわれわれの存在を知ることはできないだろう。

しかし、それとは別に、可視光もある……。

可視光

こちらのほうが見込みがある。太陽はとても明るく、その光は地球を照らしている。太陽光の一部は反射されて宇宙へと向かう。いわゆる「地球照」だ。また、太陽光の一部は地球の近くをかすめて、地球大気を通過したあと、また宇宙空間を進んでよその星へと向かう。地球照と、大気通過後によその星へ向かう太陽光、両方とも太陽系外惑星で捕捉される可能性がある。

これらの光が人間について直接何かを教えてくれるわけではないが、十分長いあいだ地球を観察すれば、反射の状況から、地球大気についていろいろと知ることができるだろう。地球上の水の循環がどうなっているかを探ったり、大気に酸素が豊富なことから、何か珍しいことが起こっているらしいと気づいたりできる。

そんなわけで、結局、地球から出ている一番はっきりした信号は、人間の出すものではないだろう。それは、数十億年にわたって地球を地球たらしめている──そして、人間の発している信号に変更を加えて宇宙に送っている──藻類が出すものだろう。

おーい、時間を見ろよ。急がなくちゃ。

もちろん、われわれがもっとはっきりした信号を送りたければ、それは可能だ。だが、電波を送信する場合、電波が届くときに、受け手が注意を払っていなければならないという問題がある。

そういう相手任せの方法に甘んじるのではなく、こちらから積極的に、彼らに注意を払わせることができる。イオン駆動や原子力推進のエンジンを搭載したり、あるいは太陽の重力井戸をうまく使うだけでも、十分高速で飛行するプローブを太陽系外に送り出し、近くにある星のどれかに2、3万年以内に到達させることが可能だろう。この旅のあいだ機能しつづける誘導システムを開発できれば(そんなものを作るのは並大抵ではないだろうが)、生物が住めるどの惑星にでも導いてやることができるだろう。

安全に着陸するには、減速しなければならない。しかし、減速するには、それまでの飛行にかかった以上の燃料が必要だ。それに、えーっと、こんなプローブを送るそもそもの理由は、異星人たちにわれわれのことを気づいてもらうためだったよね?

というわけで、異星人たちがわれわれの太陽系のほうを見たなら、彼らに見えるのはこんなものだろう。

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