ウソのようなホントの話が好物なのだが、本書はその逆。つまりホントのようなウソの話。それゆえ厳密にノンフィクションなのかと問われると苦しいところだが、そこは見逃してほしい。
紹介されているのは、日用品やビジネスツールといった道具の数々。だがこれら全てが「パラレルワールドからの御土産品」という設定なのである。現実世界のものと一見同じに見えるのだが、よくよく見ると微妙な違いがある。しかもそこが、そこはかとなく可笑しい。
進化の分岐点において、明らかに力の入れどころを間違えてしまった道具たち。「どうしてこうなった?」と問いかけずにはいられない逸品の数々を紹介していきたい。
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パラレルワールドを代表する定番ガジェットーーそれが「異Pod ANALOG」。デジタル化技術の結晶、その全てをレコード盤を回すことに注ぎ込んだ。あちらの世界で、若者たちが手に持ちながら街を闊歩している様子が目に浮かぶ…わけはない。
もちろん、自動お掃除ロボット・ルンバの兄弟分だって、向こうの世界に存在する。サボっていないことを目視で確認できる機能は、ありそうでなかった。もしくは必要がなかった…。
この他、アンケート集計機、手書きワープロなど、高度なズラシのテクニックを用いながら自動化のポイントを履き違えており、本末転倒感を小粋に演出している。
だが中には、ちょっと欲しいなと思わせるものも登場する。こちらの「文字化け事典」など、これさえあれば文字化けの全てが分かるそうだ。しかし、辞書自体も文字化けしているとのこと。英英辞典のように使えばよいのだろうか。
本好きに嬉しいのが、こちらの一品。入れるだけで豆本ができるという、まさにアナログ盤自炊のような概念。
「穴があったら入れたい」そんな中二病対策に効果的なのが、こちらの「パソコン挿入欲求解消機」。若さゆえの過ちを、はちきれんばかりに表現している。
分かりそうで分からないものも登場する。下記のデスクトップ将棋は、説明文に「フォルダ同士が戦う」と書かれているが、「どうやって?」と聞いたら負けな気がする。とりあえず華麗にスルーが無難か。
さらにエスカレートしたのがこちら。ご丁寧なことに、「チョコレート型のキーボードとキーボード型のチョコレートが混在している」という解説まで付いている。「カレー味のウンコとウンコ味のカレー」みたいなことを言いたいらしいのだが、「知らんがな」の一言で片付けておきたい。
リマインドをさらにリマインドするための機能が搭載している「付箋リマインダー」。こちらの世界への風刺的な意味合いでもこめられているのだろうか。
最後はこちら。ここまでくると、存在の意味を問うこと自体、断念せざるを得ない。
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これらの造形を手掛けているのが、広告美術集団・パンタグラフ。コマ撮りやアニメーションムービー等の立体造形を得意としており、これらの作品は『日経パソコン』の表紙で使われていたものであるという。本書はさらに、そこへ歌人・穂村弘のコメントが付けられているという贅沢な仕上がりだ。
機能的でスマートであることが求められる、道具やビジネスツール。少しだけ運命を変えることによって、一瞬にして突っ込みどころ満載の愛嬌のある奴らへと生まれ変わる。
スルーか? それともイジり倒すのか? 読み手の度量が試される一冊。
※画像提供:パイインターナショナル