世界最貧国の一つ、コンゴ共和国。ここにサプールと呼ばれ、人々の羨望と尊敬を集る集団がいる。平日は普通に働いているのだが収入のほとんどを洋服に費やし、週末になるとハイブランドのスーツを着こなし街を闊歩するという。
本書は、そんな彼らの”NO FASION,NO LIFE.”な日々を記録した写真集である。写真家のダニエーレ・タマーニが長い時間かけて築いた親密な距離感を収めたスナップには、写真の数だけ流儀がある。色とりどりのサプール達が、己のこだわり、価値観や規範を饒舌に語りかけてくる。
目を奪われるのは、彼らの舞台となる街の景色とのコントラストである。彼らが住む慎ましやかな環境に、差し色が加わったかのような華やかさ。むろん彼らは裕福で、伊達男を演じているわけではない。三度の飯を抜いてでも、月収の何倍にも及ぶ高級スーツを手に入れようとするのだ。
都市における貧困と、身の丈に合わない誇示的な消費、この鮮やかな矛盾が強烈なメッセージを発してくる。自分はこうありたいーーそんな未来へ向けた願望を無理してでも身に纏い、現在へと引き寄せる。サプール達による「決死の背伸び」は、未来へのポテンシャルを表わしているのだろうか。
むろん装いが、外見のみに留まるわけもない。スマートで高級な衣服の内側には、真摯かつ高貴な人間性が備わっていなければならないという。だから彼らは、ステータスシンボルの葉巻などに火をつける時でも、必ず周りに許可を得る。
彼らが揃いも揃ってオシャレに見えるのは、やり過ぎ感を抑制する仕組みの存在によるところが大きい。それが色のトリコロールと呼ばれる法則。組み合わせる色を最大三色に押さえることで、完璧な調和と美しさを生み出す。
そんな中、一風変わっているのがピカデリー・グループと呼ばれる人たち。彼らはイギリス人のエレガンスを志向しており、キルトを身につける人も多い。
サプールの正式名称の直訳は、「おしゃれでエレガントな紳士協会」。興味深いのは、その歴史である。1980年代、フランス帰りのコンゴ移民によってもたらされた「フランス的エレガンスへの憧れ」が原動力となっているという。ファッションの力は植民地時代の行動様式や規範への逆行とも言える状況を生み出し、複雑な感情がアートとして街に溢れ出す。
またサプールには、独自の階級制度が存在することにも注目に値する。それは必ずしも年齢に比例しておらず、どれだけ早い時期からサプールであったかに起因するそうだ。
ファッションであり、生き方であり、哲学であり、宗教でもある。そんなウェアラブルなメッセージの数々。貧しい街のお洒落な生き方と、豊かな街の画一的なファッションは、どちらが幸せなのか。コンゴの「粋」が、豊かさの意味を問いかける。