発売を心待ちにしていた本がとうとう発売された。LINEのCEOだった森川亮さんの『シンプルに考える』である。期待していた通りおもしろい経営書だったので、ぜひ紹介したい。この本は森川さんがLINEをどのように経営してきたのかを綴った本である。
森川さんの経営手法はないないづくしでとても異質だ。
「戦わない」
「ビジョンはいらない」
「計画はいらない」
「情報共有はしない」
「偉い人はいらない」
「モチベーションはあげない」
「成功は捨て続ける」
「差別化は狙わない」
「イノベーションは目指さない」
「経営は管理ではない」
これらはどれも経営書に書かれているような常識に反することばかりだ。ビジョンはいらない。なぜなら未来はわからないから。差別化は目指さない。なぜなら差別化を考えるときにみているのはユーザーではなく、ライバル企業だから。イノベーションは目指さない。それよりもユーザーの目の前のニーズにしっかり答えることが大事だから。計画はいらない。会議はしない。情報共有はしない。どれもスピードを阻むものだから。こういったことを徹底してやってきたからこそ、LINEは短期間で、世界で数億人のユーザーに利用される、サービスを生み出すことができたのだろう。
では、ビジネスを進めていく上で大切なことは何か?それはユーザーのために全力をつくすことに尽きる。経営者は現場が働く環境を整えるのが仕事だという。ビジネスは戦いではない。音楽のようなものだと森川さんは表現している。ライバル会社の動向を気にするのではなく、シンプルにユーザーのことだけを考える。そして「ユーザーが本当に求めているもの」を生み出すことに集中する。その積み重ねがいまのLINEの成功を生んだのだ。
またLINEには「すごい人」がたくさんいるそうだ。そういう人たちに共通するのは、空気を読まない。自分が好きなことだけをやる。仕事を自分で作り出す。喧嘩はしない。そして専門家にはならない。というような特徴である。そういった人たちに働きやすい環境を与え、ものごとを「決める人」を決める。これが森川流の経営のやり方である。
すべてを自分で判断するのではなく、スピードを重視するために、人に任せて口は出さない。口を出すのはその人に辞めてもらうときだけ。そして「決める人」を変えても、結果が出なかったら、そのときは自分が責任をとって辞める。と、とても潔い。
とにかく、森川流の経営は合理的でとてもシンプルである。一貫しているのはスピードが大事だということと、ユーザー目線で物事を考えるということの2つだけ。本当に大切なことを見極め、もっとも大切なことに注力する。必要なことだけをして、ほかは全部捨てる。シンプルなことだけど、実際にできている企業は少ないのではないだろうか?いまの日本に必要なのはこういうシンプルな考え方なのかもしれない。
LINEと比べられることも多い、DeNAの元CEOの著作。こちらもとても素晴らしい本。