「スタバ本にハズレなし。」と、ビジネス書界隈では昔からよく言われている。スターバックスの実質的な創業者であるハワード・シュルツが書いた『スターバックス成功物語』、『スターバックス再生物語』はどちらも名著と呼んでいいものだし、文庫化されたハワード・ビーハー(元スターバックスインターナショナル社長)の『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』などもおもしろい。
そんなスタバ本に新たな名著が加わった。『日本スターバックス物語』である。日本版『スターバックス成功物語』と言えばわかりやすいだろうか。スターバックスがどのような経緯を経て、日本で創業することになったのかを、スターバックスコーヒージャパンの立ち上げプロジェクト総責任者が綴ったものだ。スターバックスにラブコールを送る際にハワード・シュルツに出した手紙に書かれた「コーヒーはおいしいけど、食べ物には改良の余地あり」という文言には笑ったし、創業後の怒涛の出店攻勢で、人が足りないから、求人に応募してきた人、全員採用!とか、ベンチャー企業ならではの、めちゃくちゃな話がとてもおもしろい。
日本にスターバックスを持ってきたのはサザビー(現サザビーリーグ)である。雑貨やカフェを運営するアフタヌーンティや、フランス料理をベースにした無国籍料理のキハチ、ファッションブランドのアニエスベーなどを展開していた会社である。サザビーの創業者、鈴木陸三と、実兄でスターバックスコーヒージャパンの初代社長になる角田雄二。この2人がこの物語の主人公だ。この2人がとにかく魅力的で、読んでいるうちに、人柄にどんどん惚れ込んでいった。もっとこの人たちのことをよく知りたいと思ったけれど、残念ながらまだふたりとも著作はないようだ。
スターバックスに魅せられた二人の日本人。鈴木陸三と角田雄二。この二人がなぜスターバックスなのか?と聞かれたときに答えた言葉がおもしろい。
鈴木陸三「これがかっこいいんだよ。このロゴとペーパーカップが」
角田雄二「スターバックス。なんか持ってるんだよ」
ふたりとも理屈ではない。というような発言をしている。マーケティングの観点からすると、当時、スターバックスが成功する可能性はそう高いと予想した人も多かった。サザビー内でもアフタヌーンティというカフェ形態の店があるのに、なぜスターバックスをやる必要があるのか?という不満が広がった。しかし二人を中心に、直感を頼りに創業へと進んでいく。
鈴木陸三がサザビーを創業したときの秘話に以下のような言葉がある
「白いTシャツはただの下着だけど、そこに気の利いたプリントを入れたら、とたんにファッションになるんだよ。」
スターバックスに関しても同じ感覚だったのかもしれない。鈴木陸三の言うとおり、おしゃれ。かっこいい。そんなイメージが当時のカフェ業界の常識をひっくり返し、スターバックスがいまでは大成功を収めたのは皆が知るところである。
この本はスターバックスの物語であると同時にフォロワーについての物語でもある。
「最初のフォロワーの存在が、ひとりのバカをリーダーへと変えるのです。」
これはこの本の冒頭に出てくる言葉だ。そしてこの本を通して語られていることでもある。ハワード・シュルツとハワード・ビーハー。スターバックスとサザビー。そして鈴木陸三と著者。角田雄二とスターバックスで働く人たち。どれもリーダーとフォロワーという関係で成り立っている。そこで語られているなかで一番重要なことはフォロワーこそが主役であるということだ。卓越したリーダーは必要だけど、真に大事なことはフォロワーたちが「スターなきスター集団」になること。フォロワーが輝ける環境を作るのがリーダーの使命である。全くつながりはない本だが、昨日レビューした『シンプルに考える』と結論が同じだというのもなんだかおもしろい。