学会の書籍売り場で愕然とした。私としたことが完全に見落としていた。HONZの医学担当(そんなのないけど)として失格である。こんなおもろい本があったんや。それも、昨年11月発売以来、3ヶ月で三刷りと、専門書にしては爆発的な売れ行きだ。
発刊から半年なので、HONZで紹介するには時間がたちすぎているしなぁ、と思ってふと横を見ると、『前作「本当にあった医学論文」大好評につき、早くも「2」の刊行を呈した1例』と、医学関係の学会でよくある症例報告のタイトルみたいな帯をつけた本が。ということで、二冊まとめて紹介いたします。
タイトルの通り、医学専門誌に掲載された論文が、79編+75編、二冊あわせて154編も紹介されている。いやまぁ、ほんまによくこれだけ集めたものである。どれも、おもろい。紹介されている論文は、おおきく二通りに分類される。ひとつは、なんでそんなことを調べたくなったんやという研究。もうひとつは信じられないような症例報告。では、前者から。
職業に起因する疾患。ILOに言われるまでもなく、人類にとって極めて重要な課題のひとつだ。安全な職業もあれば、危険な職業もある。危険な職業の代表は誰がなんといっても『剣呑み』だ。国際剣呑み協会会員(そんなもんあるんや…)にアンケート調査した結果が医学論文として報告されている。
咽頭痛が頻繁におこり、って、そらそうやろ。それくらいはガマンしてもらうとして、注意散漫な時や複数の剣を呑む時、食道穿孔をひきおこすことがあるらしい。食道穿孔の予後は良好とあるけど、ほんまですか?ひょっとしたら、食道穿孔で死んでしまったら、アンケートに答えられないからだけとちゃいますか、とつっこみたくなる。
アンケートに答えた剣呑み師たちの平均身長が176センチで体重が79キロと、やや肥満気味であるという貴重な情報も含まれている。また、剣呑み術の習得には数ヶ月から数年におよぶトレーニングが必要らしい。危険なだけでなく、習得するのが困難な職業なのである。ほんま、どうでもええけど。
適当にタイトルをひろっただけで、『テレビの観すぎは寿命を縮めるかもしれない』、『鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい!?』、『ストレスの強い男性はふくよかな女性が好き』、『ネクタイは医学的によくない』、『麻雀をするとこんなことに』『授かり婚に医学的リスクはあるか』、『逆子は遺伝する?』、『性行為中の死亡事故、意外に多い死因は?』などなど、思わず読んでみたくなる論文ばかりだ。
論文紹介タイトルがちょっと弱気な感じがするのには理由がある。これらの研究は、もちろんエビデンスに基づいたものであり、きちんとした統計処理がされている。その結果、統計的に有意な違いがある、と結論されてはいる。いるのではあるが、まぁ、ぎりぎりの違い、っちゅうのもたくさんあるのであります。「嘘は三種類ある:嘘、まっかな嘘、そして統計」というところなのであります。
だからであろう、冒頭にちゃんと書いてある。
この書籍はあくまで読み物であり、論文の内容について医学的な妥当性を保証するものではありません。実臨床に決して応用しないようお願い申し上げます。
著者の倉原センセの良心が伝わってくるではないか。ま、書かなくとも、応用するようなお医師さんはおらんだろうけど。
もう一方の症例報告となるとバラエティーに富みすぎている。ここにも、別に論文にしとかんでもええやろ、というのがたくさんある。しかし、世の中には、おもろいことを知ったら他人に伝えたくてたまらないくなる、大阪人みたいな人がぎょうさんおるんでしょうね。
まずは、いくつも紹介されている『異物系』論文。『第二次世界大戦の弾丸が70年も心臓の中に残っていた』というのは、テレビ番組でも紹介されそうなセンセーショナルな内容だ。が、テレビなんかで画像を紹介できなさそうな論文の方がおもろいに決まっている。
『まさか!の肛門異物』は、牛の角を肛門につっこんだ男の症例報告。なんでそんなことを、信じられんなぁ。と思うのは浅はか。なんと、それ以前に三例も報告があるらしい。う~ん、わけわからん…。『206発の弾丸を食べた人』がいると思えば、『横行結腸でゴキブリを発見!?』では、腹部膨満の患者さんの大腸にゴキブリがいたと。どちれも、精神疾患の患者さんらしいけど、想像しただけでちょとこわい。
導尿しようとして、自ら30センチものネギをおチンチンの先っぽからいれて抜けなくなった男性患者も論文になっている。肝心の、導尿できたかどうかが書かれていないのが気になって、尿道あたりがもぞもぞしてしまうやないの。しかし、これは、まぁ、目的が明確なので、理解できないわけではない。
が、性的嗜好を満たすために、尿道にロブスターの触覚をいれた男とか、10センチのフォークを柄の方からつっこんだ男とかになると全く理解が不能である。どちらも海外の話である。せめてお箸くらいにしときゃぁ病院へ行くようなはめにはならんかっただろうに、と、日本男子である私などは思ってしまうのである。
『3匹の虎の襲撃から生還した男性』、ってなんで医学的に報告する必要があるんや。一気飲みした理由がいちばん気になる、醤油を約1リットル飲んだけれど、大量の点滴で後遺症が残らなかった男性の『醤油の一気飲みで血清ナトリウム値が196mEq/L!』。ほかにも『魚が耳に刺さった!』とか、『飲んでいないのに酔う病気』とか、『精子によるアナフィラキシーショック』とか、そそられまくりの症例が。
医学専門の出版社の本であるが、ごく一部を除いて内容は平易なので、一般の人でも十分に理解できる。それに、論文の内容だけでなく、おもろい論文に対する倉原センセの解説が実にユーモアと愛情にあふれている。しかし、こんだけの論文を集めるとは、ただものではありませんな。ブログを書いておられるというのでさぞかしおもろいことが、と期待したけど、むっちゃ真面目な医学的内容でございました。スンマセン。恐れ入りましたでございます。
主として人文系のおもろい論文を解説してある。タイトルとちがって、それほどヘンな論文ではなく、かなり楽しめます。
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もっとお気軽に医学の歴史を学べます。これもオススメ!