1980年代、週間少年ジャンプは『ドラゴンボール』、『キャプテン翼』、『聖闘士星矢』、『キン肉マン』など黄金タイトルが並んでいた。その中で『ジョジョの奇妙な冒険』は異色の漫画に思えた。しかし十数年の時を経て、それは大きな間違いだと気づいた。著者の荒木飛呂彦は連載当時から王道漫画を描いていたのだ。
本書は全く人気が衰えることのない長期連載漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦による漫画の描き方の解説本である。これまで明かすことの無かった漫画制作の秘密を、作品を題材にしながら披瀝している。
また著者は「漫画は最強の総合芸術」と断言し、漫画以外の創作活動に活かせる話も本書は満載である。クリエイティブな人間にとって必携の一冊と言える。例えば絵を描く際に必要な「美の黄金比」や、ヘミングウェイに学んだストーリー作りなど具体的な方法論が解説されている。
著者はこれらの方法論を「道に迷わないための地図」とし、2007年に東北大学で講演している。基本構成として、「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」を基本4大構造とし、「絵」という最強のツールで統括、セリフという言葉で補うといった、きわめて具体的な方法論を展開している。
特にキャラクターは重要で、著者がキャラクターを創造する際には、必ず身上調査書を作っている。身上調査票とはキャラの身長、血液型、過去ダメージを受けた傷、口グセなどが書かれたプロファイルである。この「キャラクター造型のための身上調査書」の話は、NHK高校講座といったテレビ出演の際に自身の口から語られていた内容だが、今回はそれらがより体系的に解説されている。
中でも興味深いのは、ストーリーにおいて主人公はつねにプラスで上がっていくべきだ、としている設定。週刊連載の都合もあるかもしれないが、勝って終わるプラスの状態で話が終わらないと読者がマイナスの気分になってしまう。主人公が壁にぶつかり、そこから這い上がる設定というのは一種のカタルシスであり良さそうに思えるが、著者はそれではダメだという。壁にぶつかる設定や、プラスマイナスの変動もNG。マイナスの状態から始まり上昇するのはOKといった具合である。そのためトーナメント式に勝ち進む漫画は人気はあるが、話の構造的にインフレしやすいという弱点もある。
キャラクターの魅力について、『ドラゴンボール』の孫悟空や、ジョジョ第3部の承太郎等、人気キャラクターがなぜ人気なのかも詳しく解説されている。逆に人気の無いキャラクターは何故人気が無いのかも解明される。
著者は論理的な人間という印象が強い。天才と呼ぶ人は多いが、かなり合理的かつ論理的に描き進める印象だ。逆にこの緻密さゆえに、違和感ない破天荒なキャラやセリフを生みだせるのかもしれない。また一方で、この本はロジカルながらどこか熱く、ジョジョキャラを彷彿とさせる描写を文体から匂わせる。実際に、感情移入のあまり、キャラクターが死ぬと愛情込めて描いてきた著者も涙してしまうらしい。
ここまで『ジョジョの奇妙な冒険』が長く読まれている理由は、その才だけではなく不断の努力の積み重ねだろう。漫画家を目指す人や原稿を書いている人にとっては、必読であること間違いない。それに留まらず今後の漫画界のレベルを引き上げる内容だ。創作において非常に有益な内容であることは明白だが、あとがきでクリエイティブな人間に対し、重要なメッセージが込められているので、そちらも確認していただきたい。
しかし本とは、つくづく投資効率が高いツールである。こんなにも含蓄ある内容を800円で販売するのだから。
戦略の天才カルタゴの名将ハンニバルと彼を迎え撃つローマの指揮官スピキオにフォーカスした漫画。第1巻の帯には荒木飛呂彦絶賛とある。レビューはこちら