とある夜、晩御飯の後、焼酎の湯割りを片手にいそいそとこたつに潜り込む。つまみは『証明の探究』、前回ご紹介した(HONZ活動記はこちら)『コミック 証明の探究 高校編!』の元となった本である。いや、本を読むのにお酒なんて、と思わないでほしい。いつもなら背筋を伸ばして読むのだが、「はじめに」で著者がこう書いてあるのである。
慌ただしい日常生活の余暇に、バラ色のワイングラスを傾けながら本著を眺めてくれたら筆者としては望外の喜びである。
ワインなどというこじゃれたものは我が家にはないので、庶民の味方「いいちこ」である。富山県産日本酒でもよかったが多分本どころではなくなってしまうので、ここはやはり焼酎だ。梅干しは残念ながら長男がおやつに食べてしまったらしくなかった。本当は梅入りで飲みたかった。
『証明の探究』は、背理法と数学的帰納法の解説を主軸に据えた文科系大学生向けの教養テキストである。著者は、受験数学において、この両者が重要視されないことを嘆く。「証明を軽視する姿勢は、数学の面白さに触れる機会を激減させ、数学を学ぶ教育的意義の崩壊を導く。」とまで言う。元となったこちらの本では、過去の大学入試問題から、選りすぐりの証明問題を紹介し、解法を示す。『コミック 証明の探究 高校編!』では、主人公の高校生が元本で紹介された問題のうちのいくつかを解いていく。元本の説明は丁寧で進学校の文系高校生にも理解できるだろう程度だが、コミック版では解法が図解説明されるため、更にわかりやすい。
文章がとても人間味があって、温かいのだよなあ。
杯もページもすすむ。文系というのは、味のある文章は読んでしまうのである。例え高校時代数学アレルギーを患い赤点ばかり取っていた(自分です)としても、どんどん読める。例えば第4章 背理法(基礎編)。『韓非子』「難」矛盾の故事を導入にしてあり、いきなり設問から始まるわけではないので、身構えることはない。星飛雄馬と花形満を例えに使ったり、言語学や論理学の「命題」と数学用語としての「命題」の意味の違いを説いてみたりしながら、読者の興味をそらさずに例題に入る。背理法とは、「〇〇〇ならば●●●である」という命題があったとして、結論部分●●●を否定した場合矛盾が生じるため結論の否定は誤り、ゆえに命題は真である、というやつだ。なんだか大昔、高校時代に習った気がする。こういう数学的な思考力を身に付けることは、文系学部に進学したとしても益がある、と思えるのは大学を卒業して10年以上たち、過去を客観的に振り替えることが出来るから思うことなのだろう。学生時代にこの本に出会いたかった。
教養テキストながら、数学を学ぶだけの内容ではない。一人の大学教員がいかにしてその立場に至ったのか、差し挟まれたエピソードが興味深い。教養テキストの中の箸休めエピソードとしては異例の文量で語られるそれは、研究職を志望する高校生や大学に入って間もない学生にとっては参考になる内容だ。また、数学教育に対する著者の意見も明確で、教職の方、教職を目指す学生にもぜひ読んでみてほしいと思う。
実際にコミック版では、数学が好きな主人公の高校生が作中『証明の探究』に出会い、また研究者として身を立てようとしている高校の臨時教員、片思いの相手にも刺激を受けながら、進路を決めていく。著者は、自身の本が実際に悩める学生の助けになれば、と願っているのかもしれない。
まさか大人になってから苦手だった数学の本を楽しく読むことになるとはなあ、コミック版も取り出し、しみじみしながら読み比べていると、小学生の長男が、あ、その漫画、暇だったから勝手に読んだよ、と言う。え、読めたの?と聞くと、うん、恋愛漫画でしょ、続きはあるの?と聞き返された。数学の部分はどうだったのだろうか。確かに恋愛漫画と言えば恋愛漫画なのだが、その恋愛の行方には常に数学が絡まっているのだ。恋の方程式が解けるのか、解けないのか、読者はハラハラするのである。君に恋の方程式はまだ早いんじゃないのか・・・?複雑な気分である。
更にYou Tubeにて公開されたテーマソング『恋の証明』を聞かせてみると、アニメ?ドラマになるの?と素直な目で見つめられてしまった。いや、どうなのかな・・・。大阪大学出版会が更に斜め上の販促を考えてない限り、それはないのではないだろうか。たぶん。慌てて話を遮って、『証明の探究』第7章の一筆書きの問題を紹介し、話題を変えることに成功した。ママは答えを持ちません。そして、大阪大学出版会の営業氏に聞くのもためらわれます。ダンスの振り付けも検討中というのは内緒にしておこうと思った。
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野坂美帆様
いつもお世話になっております。大阪大学出版会のTです。
お忙しい中、お返事をいただきまして、ありがとうございます。
HONZで素敵な記事を書いていただき、ありがとうございます!
遂に『恋の証明』が完成し、以下URLに動画をそれぞれアップいたしました。
PV版は約60秒のコマーシャルのようなものです。
完全フルバージョン版は、約4分30秒の曲すべてです。
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「出版業界のミュージックシーンを変える」
『コミック 証明の探究 高校編!』(日比孝之 原作/門田英子 漫画 )
【曲名】『恋の証明』
歌:山國恭子
作詞:日比孝之
作曲:大竹浩史 (大阪大学 音楽制作サークル ラムレーズン)
■PV版 https://www.youtube.com/watch?v=tZWpzBu7Dno
■完全フルバージョン版 https://www.youtube.com/watch?v=EFN6_ZvRMII
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日比先生の歌詞の破壊力は、とてつもなくすさまじいです。
私も初めて目にしたときは、大衝撃を受けました。
先日大阪でお会いした時にもお話したように思いますが、2014年3月に放送されましたTV
番組「探偵!ナイトスクープ」で、大阪大学の数学教授の和田先生が出演されました。
3回聞けば覚醒するという名曲『宿酔』です。
YouTubeの再生回数も17万回を超え、一躍時の人となられました。
(ご参考)https://www.youtube.com/watch?v=-lg1Gdyi1jQ
5月の学園祭で、私どもも共演させていただきましたが、そのライブをみるために、九州から家族連れで参加される方もいて、すごい盛り上がりでした。
そのころから、「大阪大学」+「数学」=「音楽」という方程式が世間にも浸透してきているのではないかと思います。このことからも、今回の主題歌制作は必然です!
「出版業界のミュージックシーンを変える」をコピーとして、がんばってまいります!
ついつい、熱くなってしまってすみません。
野坂さまもどうぞお体ご自愛くださいませ。
今後とも引き続き、よろしくお願い申し上げます。
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・・・明日は絶対宿酔にならないようにしよう。もう寝よう。
大阪大学、次の学園祭は、いつだろう。『恋の証明』、ダンスはどうなるのだろうか・・・。
ちょっとだけ思った。