11月11日、肌寒い中、JR大阪駅に着いた。休みを取っての日帰り旅行は、Osaka Book One Projectに選出された文楽小説の傑作『仏果を得ず』の著者、三浦しをんさんのトークイベントを拝聴するためである。
大阪に行くついでに、知り合いと会う約束をしていた。『ドーナツを穴だけ残して食べる方法 越境する学問―穴からのぞく大学講義』の出版元、大阪大学出版会の営業氏である。
HONZ仲野徹を擁する大阪大学は、非常にユニークな出版部を持っている。もちろんお堅い真面目な書籍も出版しているのだけど、『ドーナツ~』のような興味深い新刊を出してくるのだから、注目してしまう。『ドーナツ~』は本当に面白い一冊だった。類のない着眼点から書かれている上に、構成も良かった。総合大学の多様性が感じられる構成で、参加した先生方の使われた論法から、各学問の個性がよく理解できた。(仲野徹のレビューはこちら)学生の授業の一環で本を作るというのも面白いが、出版された後の販促も面白かった。静岡ではドーナツの穴を静岡県の形にくりぬいた限定カバー版を出したり。
やあやあお久しぶりですお元気でしたか、と挨拶を交わした後、私は途方に暮れていた。とある本について熱く語る営業氏に、正直とても困っていた。壇蜜さんの写真を見つめるふりをして、営業氏から目をそらす。美人だね、壇蜜。色気たっぷりだね、壇蜜。どうしよう壇蜜。助けてほしいです壇蜜・・・。 (BS日テレ「久米書店~ヨクわかる!話題の一冊」内で壇蜜さんが『ドーナツ~』を取り上げられた際の記念写真らしい)しかし、くじけてはならない。せっかくお会いしたのだし。壇蜜さんの写真から目をはなし、営業氏のトークに突っ込みを入れる。
「つまり、数学なんですね?」
「そうなんです!数学なんです!」
「そして、漫画なんですね?」
「そうなんです!以前出された書籍の内容を、わかりやすく漫画化したものなんです!もともとその書籍は、文系大学生や高校生にもわかるほどの内容で、難しいものではなかったんですが、今回はそれを更にわかりやすく、普及しやすくしたもので」
「そして、恋愛要素があると」
「あります!少しですけど」
「その恋愛要素は、必要なものなんですか?」
「必要です!」
「そして、販促企画として、テーマソングをお作りになられると?」
「そうなんです!」
「しかも、完全オリジナル曲で、作詞は先生ご本人がなさると」
「そうです!曲は大阪大学の学生さんが作られました!」
「しかもアニソンに負けないくらいのPOP調・・・」
「はい!歌詞はかなり情熱的な内容です!」
「その歌詞は、この書籍の販促に必須なんですね?」
「必須です!」
「情熱的、という方向性も、販促上間違いないんですね?」
「もちろんです!しかも、ダンスの振り付けも検討中です!」
「・・・」
あ、どうしよう。また途方に暮れてきた。
大学出版会が出す数学漫画。ここまではいい。作画も元となった書籍の著者先生のご関係者という。元本の内容をきちんと伝えるものになるだろう。ここまではいい。しかし、販促企画があまりにつかめない。どうしよう。こんな新刊に出会ったことがない。しかし、営業氏は自信満々である。清々しいほどである。歌って踊る大学と数学と出版社・・・。あ・・・どうしよう・・・ほんとに・・・。仕事の話なんかせず、一緒にドーナツでも食べてればよかった。
「野坂さん、もう歌詞はでき上がっておりまして、ぜひメールで送らせてください!」
あ・・・どうしよう・・・。しかし、本業(書店員です)の魂が、販促企画は把握し、商品の動向を伺う材料にしなくてはいけないよ!と叫んでいる。
「もしよければ、曲も聞いてください!」
あ・・・。
「ゲラも初校が上がっておりまして、読んでいただければ!」
ああ・・・。何だか外堀を埋められていく・・・。
「わ、わかりました。拝見します。拝聴します」
もとより大阪の人に(営業氏が関西出身かは知らない)トークで勝てるわけがなかったのだ。地域性なる神話に心慰め(逃げというなら逃げです)ながら、この場は何とか別の話題に切り替えることに成功したわけなのだが、この新刊の販促企画は、私の胸に収めておくには斬新すぎる。もしかしたらこの冬、ポピュラーサイエンス書業界に一大旋風を巻き起こすかもしれない。というか、冷静に考えて、面白すぎるだろう大阪大学出版会。並びに大阪大学の皆さん。あまりに衝撃的だったので誰かと共有したく思い、HONZ活動記として寄稿することにした。
なお、私は普段仕事のお付き合いの方の前では冷静沈着である。この時も、おそらく見た目は非常にクールだったはずだ。
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野坂美帆 様
いつもお世話になっております。
大阪大学出版会のTです。
12月新刊書『コミック 証明の探究 高校編!』にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。
こちらの書誌情報を小会ホームページにUPさせていただきました。
『コミック 証明の探究 高校編!』(日比孝之 原作/門田英子 漫画)
→http://www.osaka-up.or.jp/books/ISBN978-4-87259-471-3.html
本書は、2011年に小会から刊行致しました
『証明の探究』(日比孝之)
(http://www.osaka-up.or.jp/books/ISBN978-4-87259-385-3.html)のコミック版として刊行する1冊です。
またプロモーションとして、こちらのテーマソングを、大阪大学音楽サークルのみなさんや卒業生の方と一緒に作成いたしました。ぜひお聴きいただければ幸いです。
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【曲名】『恋の証明』
歌:山國恭子
作詞:日比孝之
作曲:大竹浩史 (大阪大学 音楽制作サークル ラムレーズン)
【歌詞】
ねえ 誰か教えて
白い窓の外には さらさら川が流れてる
毎日通う図書館からの 眺めはなんにも変わらないけど
わたしの心は いつもゆれてるふりこだね
恋の証明ノート そっと開いて今日も考える
わたしを悩ます難問は 糸口さえもみつからない
ねえ 誰か教えて
彼がわたしを好きなこと どうやって証明するの
How to prove love
How to prove love
ああ 恋の証明
(以下略)
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グッとくる歌詞です.。
私たちは、出版業界のミュージックシーンを変えます!!
今後ともよろしくお願いいたします。
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・・・変えるのそこかよ!
つづく、かもしれない。
↓12月12日発売です。
↓こちらが元となった書籍です。