『どうする定年 50歳から巻き返し!まだ間に合うマネー対策』-編集者の自腹ワンコイン広告就活・婚活・妊活に保活……次に来るのは「定活」?!
定年退職で上司たちが去っていく。新人の頃に仕事を教えてもらった大先輩や、同じ部署で長く一緒で飲み仲間だった先輩を、ひとり、またひとり見送るうち、気づけば自分も歳をとり、会社人生の終わりが見え始めてガクゼン……そんな人も多いのではないだろうか。
本書は、1963年生まれ、まさに等身大の3人が登場する、小説仕立てのマネー本だ。
<おもな登場人物>
一度聞いたら忘れられない、なんともベタでイカしたネーミングとキャラ設定だ。50歳を迎えた社員が一堂に集まり、入社以来のこれまでの自分を振り返り、この先の自分について考える「セカンドキャリア研修」の場面から、物語は始まる。
計ったように順調だった順平には、就活失敗でひきこもりがちの息子が、ひとり娘の華代には親の介護が迫り、成行は娘の教育費に住宅ローン……それぞれ不安を抱えて暮らす。
介護や相続に関するトラブルなど、明日はわが身の話題も多く、苦手な経済用語や数字がたくさん出てくるにもかかわらず、共感しながらスルスル読める。
目次
第1章 入社以来、走り続けて気づけば……[もう50歳、まだ50歳編]
第2章 10年がかりで巻き返し[まだ間に合う貯蓄・投資編]
第3章 そのうち自分の番が……[老いは誰にも訪れる編]
第4章 「賃貸」か「持ち家」か[住宅ローン・リフォーム編]
第5章 人生いろいろ[相続は突然に編]
エピローグ ~それぞれの10年後~
成行の15歳年下の妻・愛が、実家の母と連絡がつかないと心配するシーンでは、
「実家の近所の人に連絡が取れるよう電話番号を聞いておく」
「親が嫌がっても携帯電話は必ず持たせる」
という2つのアドバイスが出てくる。
実は私も、本書の校了中、実家でひとり暮らしの母と数日間連絡がとれず、近所の人の電話番号など知らないし、携帯電話も持っていないしで、いつも以上にドキドキした。愛のように実家に帰ってみるかどうか悩んだ。その後無事に連絡がついたが、今度帰省したら、ご近所さんの番号だけでも聞いておかなくてはと痛感している。
誰しもひとつは身に覚えのあるエピソードや、考えさせられる場面が出てくると思う。
本書は「日経ヴェリタス」の連載がベースだが、約1年半にわたって記者12人持ち回りで執筆された。回を重ねるごとに3人の主人公とその家族たちの性格や骨格がくっきり際立っていく。ファイナンシャルプランナーなど取材先との連携による緻密なデータを前に、「今週は自分の番だ! 彼らをどうやって困らせよう?」と全員で楽しみながら書きつないだ空気が伝わってくる。唐仁原教久氏の挿画も、もう若くないサラリーマンをほのぼのリアルに具現している。
エピローグでは10年後、60歳になった3人の姿も描かれる。彼らのその後を見届けてホッとして読み終えると同時に、自分も会社卒業の先を見据えて「定活」したほうがよさそうだな、と軽くお尻をたたかれる一冊だ。
芸能誌、女性コミック誌、文庫編集部を経て、2014年より現職。これまでに担当
したノンフィクション本は、清水義範『夫婦で行くバルカンの国々』穴澤賢『ま
たね富士丸。』片野ゆか『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』など。