『海賊たちの黄金時代』by 出口 治明

2014年12月3日 印刷向け表示
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海賊たちの黄金時代: アトランティック・ヒストリーの世界 (MINERVA歴史・文化ライブラリー)

作者:マーカス レディカー
出版社:ミネルヴァ書房
発売日:2014-08-10
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 ジョニー・デップ扮する海賊ジャック・スパロウは世界中で大変な人気者である。僕も大好きだ。それは何故だろうか。本書を読めばその答が分かるというものだ。なるほど、そうだったのか。合点がいった。

海賊の黄金時代は1710年代・20年代だった。スペイン継承戦争(1702~13)の後、海賊が急増したのは、連合王国の王立海軍が約3万6千人の人員削減を行い、また私掠免許状が失効したためである(第1章、第2章)。海賊となる者は、商船の水夫や水兵、私掠船の乗組員たちであったが、「大多数は海賊に拿捕された商船からの志願者」であった。彼らは20代後半で「例外なく社会の最下層からきた」人々であった。彼らは過酷な労働環境、船上の悲惨な境遇から逃れようとしたのである(第3章)。したがって、海賊の生活は陽気なもので、勝手気ままに騒ぎながら飲み食いし、幹部も民主的に選ばれ、掠奪品の分配も船長1.5ないし2に対して船員1と極めて公平なものであった。

海賊に拿捕された商船長の命運は、水夫に公平な扱いをしたかどうかにかかっていた。即ち海賊たちに言わせれば、船長の処罰は「正義の分配」であったのだ(第5章)。海賊は男社会であったが、有名な女海賊(ボニーとリード)もいた。女海賊のアレゴリー(図像)と、ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」との類似性の指摘はとても面白い(第6章)。僕は、倭寇は、日・中・韓の海民の自由な海の共和国だったと理解しているが、平等主義・民主主義を標榜した大西洋の海賊が、時の権力者たちから人類共通の敵と指弾されたことは驚くにあたらない。こうして、海賊のために次々と絞首台が用意された(第7章)。しかし、海賊たちは死をものともしなかった。無人島での海賊の気晴らしの1つに裁判劇があったが「このままこの者がしゃべるに任せておけば、無罪となりかねず、そうなれば本法廷にとっての恥辱となりましょう」などという骨太のユーモアを持っていた。海賊たちは、絞首刑が既定の結論であることを十分理解していたのである。何というリアリズム(第8章)。

古代の海賊が「小さな船で掠奪をおこなうと泥棒と呼ばれますが、大きな船でおこなうあなたは皇帝と呼ばれます」とアレクサンダーに返答したように、18世紀の海賊も権力に正面から対峙した。そして同時代の支配者との衝突には敗れたが、「民衆の想像力という幸福な船を捕まえ」た。「我々が海賊を愛する理由のほとんどは、彼らが反逆者であるからだ」「我々は反抗すべき権力者や抑圧的な状況が存在する限り、彼らのことを想起するであろう」こうして現世では短くも(1~2年)陽気な人生を送った後、絞首台に吊るされた海賊は、歴史の中で永遠の命を得たのである。

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。  

 

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