サブタイトルは「生き方の手本としたい十賢人のメッセージ」。
「15歳の寺子屋」という全13巻のシリーズから10作品が選ばれ、1冊にまとめられており、うまみ成分がぎゅっと濃縮されたような、大変味わい深い1冊に仕上がっています。15歳向けという事で、難しい言葉を多用することはないものの、目の前にいる若者に語りかけるような文体で、人生の岐路に立った時、励まされるメッセージが満載で、心に響くエピソードにあふれており、何度も涙が出そうになり、胸の奥を熱くしながら読みました。
安藤忠雄さんは言います。
「私にとって建築とは、人間と世界を知るためのひとつの装置であり、同時にひとりの人間としての私が、世界の一員として世界に問おうとする言葉であるということです。私は、建築という言葉を使って、自分の思いを世界に投げかけてみたい。世界に自分の言葉を受け止めてもらいたい。もちろんそれは、自分に対しても向けられている言葉であると思います。」
仕事を通じて自己を表現し、仕事を通じて様々な人の幸せにかかわっていらした安藤さんの言葉から、働くことの意味を考えさせられました。
瀬戸内寂聴さんは言います。
「私がみなさんにぜひ養ってほしいと思っているのが「想像力」です。ここでは「想像力」=「思いやり」と考えてください。
たとえば、東日本大震災で直接被害を受けなかった人の中にも「今、被災地の人はどんなに困っているだろう」と考えた人はたくさんいたはずです。これが「想像力」です。想像力豊かな人とは、他人の苦しみや痛みがわがことのようにわかる人のことなのです。
(中略)
その想像力にとって肥料となるのが、読書です。また学問も想像力を鍛えてくれます。読書や学問は、単に知識を仕入れることで終わらずに、知ったことや学んだことが栄養となって、いっそう想像力を高めてくれるものなのです。」
実用的なビジネス書や実務書を読むことは、すぐに役に立つという点で即効薬のようなものですが、想像力を駆使して物語の世界に遊ぶ文芸書を読むことは、心の栄養となりじわじわと効いてくるもので、どちらかに偏らず、両方をうまく取り込んでいくことで、私たちの人生はより生きやすく豊かなものになるではないかと思います。
私のように対象年齢×2強になってしまっていても、十分感動しましたが、ぜひ悩み多き多感な時期の方にも読んで欲しい。もしお子さんがおられる方でしたら、自分が読んだ後に子供さんにもおすすめ頂き、感動を共有して頂けたら、と思います。
生き方のモデル、その生きざまに感動する人が周りにいらっしゃいますか?京都には様々な分野の超一流の方がたくさんおられて、日々刺激を受けているのですが、その中のおひとりの最新刊を紹介します。
この本の著者、三島さんは2006年に自由が丘で立ち上がった出版社「ミシマ社」の社長さん。笑顔がとても素敵でフレンドリーな、編集から営業(その他諸々)まで、なんでもこなすフットワークの軽いお方です。
この作品中にも出てくる、京都烏丸のオフィスは私の働くお店から徒歩3分以内。ご近所さんなのでよく来ていただいておりました。東日本大震災を機に京都の城陽市にも拠点を開設し、二拠点体制を始めたミシマ社の日々をつぶさに書き留めた記録です。
ミシマ社にはサポーター制度というものがあり、ウェブ版ミシマガジンの運営費はサポーターから寄せられた資金をもとに成り立っています。安易に企業スポンサーを募らない!その決意が下記の文書からあふれ出ています。
「出版社とは表現、言論のレベルではもとより、経済的にも自主独立であらねばならない。
(中略)
どの社であれいいものは褒める、悪いところ、欠陥は指摘する。そういう基本が成り立たないようでは、それは御用聞きであって、メディアとはいえない。メディアとは字義どおり、「媒介」であるのだから。
その「媒介」とは、もちろん「何もしない」を全身全霊込めてする存在である。「何もしない」を全身全霊込めておこなうことで、感知できる。目には見えない、けれど、とても大切なもの。あるいはこれは届けないといけない、というものを。そのとき、躊躇があってはいけない。届けるべきものは届ける。それだけだ。」
気さくな三島さんですが、一本芯が通っていてぶれない、それでいて柔軟に変わることを恐れない。三島さんを支える「教え」が文中で紹介されていました。それはミシマ社から著作を多く出されている内田樹先生の言葉です。
「決断というものは、できるだけしない方がよいと思います。といいますのは、「決断をしなければならない」というのは、すでに選択肢が限定された状況に追い込まれているということを意味するからです。選択肢が限定された状況に追い込まれないこと、それが「正しい決断をする」ことより、ずっと大切なことなのです。」
三島さんのオフィスは残念ながら烏丸から1駅先の丸太町に移転してしまいましたが、一番近い本屋さんが当店であることに変わりはありません。これからもミシマ社さんの活動から目が離せません!三島さんの初著作も文庫化され、より多くの方にお手に取りやすい形になりました。
三島青年が出版社を作ろうと思い立ってから、懸命に走り続けた5年間の記録です。
計画と無計画のあいだを行き来しながら作ったものが、真にクリエイティブなものであるということは先ほど紹介した最新作にも書かれており、その狭間に三島さんの芯のようなものがあるようです。三島さんが書かれた設立の言葉から引用して、今月の紹介文を終えたいと思います。
「一冊」が育む、想像力、生きる力。そして「一冊」とわかちあう無上の楽しみ…。本にはそうしたかけがえのない出会いを生み出す力があります。
小社では「一冊の力」を信じ、本づくりに従事します。
思いを込めた本は、子どもから大人まで、世代を問わず楽しんでいただける。読んだ人たちが、ちがう世界へ羽ばたくことができる。たった一冊で人は成長できる。
「一冊の力」を信じることこれがミシマ社の考える原点回帰です。かけがえのないこの一冊を通じて、皆様にお会いできますことを心より楽しみにしております。
【大垣書店烏丸三条店】
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