文房具フェチである。ちょっとした文房具屋さんがあると、かならず覗きたくなる。ついムダな文具も買ってしまう。しかし、万年筆などに手を出さないかぎり、文房具の値段などしれたものである。文房具関係の本も好きである。いりもしないカタログ系のムックなんぞもしょっちゅう買っている。
この本も、出張前に駅の書店でつい買ってしまった。駄文具、なんじゃそら。著者は『きだてたく』。どこまでが名字なのか、はっきりしてほしい名前である。その、きだ氏かきだて氏かによると、駄文具とは『思わず遊んでしまって仕事が出来ないのが』、駄目な文具すなわち駄文具らしい。
プロフィールを見ると、ただ者でないことは一目瞭然だ。『自称世界一の色物文具コレクション(5,000点以上)に囲まれ』る生活であり、『“文具王”高畑正幸氏や、他故壁氏らと文房具トークユニット「ブングジャム」を結成。』とある。知る人ぞ知る文具王とユニットを組んでるとはあなどれん。
不覚にも他故壁氏はしらなかった。どう読むのかと思ったら、『たこかべうじ』らしい。高畑氏には氏と敬称をつけてるが、他故壁氏氏と書いてないということは、他故壁氏とほぼ同等の実力の持ち主なのであろう。といっても、たこ氏がどんな人かは知らんのであるが。
この本、すばらしいの一語につきる。80あまりの駄文具たちが、美しい写真と、ひねったタイトル、しゃれた解説とともに紹介されている。あっという間に読める。立ち読みでも十分だ。しかし、この本を手に取ったら、どうしても買いたくなるだろう。なんせ、しゃれてておもろすぎるのだ。
文具のカタログ、といえばそれまでである。しかし、ほとんどの文具本は、メーカーの名前とか、値段、そしてどこで手に入るか、などが書いてある。この本は、そのようなあさましい本とは違う。さすがに文具の名前は書いてあるが、メーカー名も値段も書いてない。さすが、色物文具ファンは粋である。
どれも垂涎の文具なのであるが、特に気に入った五つだけを紹介したい。あくまでも個人的な好みである。おそらく、人気投票したら、かなりばらつくはずだ。まずは、トップに紹介されているこれ。本というのは、買う前にぱらぱらと見るものだ。最初には、おそらく自信の逸品がおかれているはずだ。著者の思惑通り、心が鷲掴みにされた。
”airmail”と名付けられたメモパッドである。いまはもうすっかり見かけなくなった航空便せん模様のついたメモパッドだ。が、よく見てほしい。横に投石器のようなものがついている。メモを書いたらまるめて、これを使って飛ばすのだ。文字通りのエアメール。4.6メートルも飛ぶらしい。小さいオフィスでもE-mailを使ってしまうことが多いこのごろだが、このエアメールの方が素敵ではないか。500枚もメモ用紙がついて12.99ドルは、一通あたり三円と超お買い得だ。
画期的な発明商品もある。ゴム製の鉛筆グリップと、なんと、鉛筆削りが合体した優れものだ。その名も gripsharp。鉛筆を鉛筆削りにさしたままなので、芯が丸くなるとすぐ削ることができる。けど、かなりバランスが悪そう。ふつう、こういうものは、思いついても商品にはせんわなぁ。米国のアマゾンでは、5個セットが14.5ドル。だいたい、どう考えても五つもいらんし…
持ち運びに至便な6色84玉のクレヨンセット。これは便利だ。84本じゃなくて84玉というのがミソである。ネックレスになってるのだ。服が汚れそうだけれど、ちゃんと特殊コーティングがしてあって大丈夫らしい。これは、日本のアマゾンでも扱っていて、わずか756円!上の二つに比べたらきわめてリーゾナブルである。
残る二つは、せっかくの駄文具なんだから、役にたたなさそうなものを紹介したい。とはいうものの、役にたたなさそうな駄文具がほとんどなので、かなり迷う。が、えいやっと選ぶはチタンの定規。定規なら役にたつのではないかと思われるかもしれない。しかし、その長さ1センチ。受注生産で、なんと3,900円!
『デザインやものづくりをしていると、ノギスが入らないような小さな隙間で長さを測りたい場面が出てきます。』って、そうかもしれんが、1センチをきっちり測ることってどれだけあるんや。『1cm定規としてお使いいただいても、ストラップやキーチェーン、ネックレスなどにアクセサリーとしてつけていただいてもおしゃれな小さいサイズです。』って、かなり弱気やし。
迷いに迷った最後の一品も定規。またまた、定規なら役にたつのではないかと思われるかもしれない。が、目的が違うのである。いきなりであるが、横山ホットブラザーズをご存じであろうか。大阪では誰一人知らぬものはない芸人さんである。必殺技が、西洋ノコギリによる音楽。
『♪ おまえはあほか~』いうやつだ。いわば、その定規版。30センチの定規を机の端にあてて、びよんびよんさせて音楽を奏でるための定規だ。名前はmusical ruler。教則本までついて10ドルあまり。どや、まいったか。ま、音はかなり微妙であるが…
いやはや、すばらしすぎるラインアップだ。利用価値はさておき、価格は子供にでも手が届く程度。文房具の世界はここまで芳醇であったのかとの感動を禁じ得ない。が、駄文具という名前は少し失礼ではないか。ダビンチの名前と似ているのがレオナルドに対して失礼だし、駄目の駄というのも失礼だ。珍品とか珍本のアナロジーで珍房具いうのはどうだろう。ちんぼうぐ、サイボーグみたいでかっこいい、ことないか…
PS:きだてたく氏は、『色物文具専門サイト イロブン』を作っておられるので、興味のある方はそちらもどうぞ。
なにげなく使っている文具がいかにすばらしく作られているか。感動ものの一冊。
名エッセイスト串田孫一に文具を書かせるとこうなる。もはや使われていないものもたくさん。