突然ですが質問。あなたは「お金」が好きですか??
あればある程いいもの、と単純には言えなくなってしまう、お金の本質について考えさせられる本をご紹介します。
「お金と幸せの答えを教えてあげよう」と帯に大きく書かれた本書は、お金儲けのコツを書いたものでも、お金持ちの豪遊を書いたものでもありません。図書館司書の一男は、弟の残した借金を肩代わりし、仕事を掛け持ちしながら昼も夜もなく働いていました。妻と娘とは別居し、寂しい一人暮らし。ひょんなことから宝くじに当選し、3億円を手にした一男。慌てふためいた彼は、ネットで同類の人間の姿を知ろうと検索をかけますが、そこにあふれる宝くじ当選者の悲惨な末路にますます不安を覚え…。事業で成功し大富豪となった親友・九十九のもとを15年ぶりに訪ねます。
九十九に勧められるまま、大枚はたいて豪遊した翌朝、彼は三億円を持っていなくなっていたのです。そこから一男の30日間にわたるお金と幸せと九十九を探す冒険が始まるのでした。一男は、九十九と共に事業を興して大金を手にした、彼のかつての仲間たちを訪ねて歩き、それぞれの人生を垣間見ます。皆、一生かかっても使い切れない程の富を手にしているはずなのに、なぜか満たされずにいる。後悔を抱えて今を生きている彼らの姿を目にした後に、やっと九十九に会えるのですが…。
九十九は言います。
「人間は信用にしかお金を払わない。信用のためには、誰もが知っている‘分かりやすさ‘が必要なんだ。クレジットカードの、クレジットの意味を知っているかい?知らない?すぐに辞書を引いたほうがいい。クレジットは信用だよ。あれはお金のカードじゃない。信用のカードなんだ。お金の実体は信用なんだよ。」
「人間には自分たちの意思ではコントロールできないことが、みっつだけある。何か分かるかな?」(中略)震える声で、一男は答える。
「死ぬことと、恋することと、そしてお金だ。」(中略)
「死ぬことも、恋することも、人間が誕生したときからそこにあったものだ。だけどお金だけが、人がみずから作り出したものなんだ。人の‘信用’をかたちにかえたものがお金なんだよ。人間がそれを発明し、それを使用して、使っている。だとしたらお金は人間そのものだと思わないか?だから僕たちは、人を信じるしかない。この絶望的な世界で、僕たちは人を信じるしかないんだ。」
3億円を得た一男が、すべてを投げ打っても欲しいと望んだものは、壊れつつある家族の絆でした。彼は大切な娘の為にラストシーンで初めて3億円の中からお金を使います。その金額は本当に微々たるものでしたが、娘と一男には心から笑いあえる楽しい瞬間が訪れます。
「人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの少しのお金さ」
人はついないものねだりをしてしまいます。もっとお金があればなぁ、とは誰もが一度は思う事だと思いますが、お金の量と幸福度は必ずしも比例しないことがしみじみと分かる作品です。
川村元気さんは『世界から猫が消えたら』では、周りのものを消して、そぎ落としていくことで残る幸せの形を描き出されました。前作では引き算で割り出した答えを、今回の『億男』では足し算で表してこられました。次回はどんな方法で、私たちに幸せの形を見せてくださるのでしょう。今からとても楽しみです。
次の1冊では、お金とのかかわり方をより実践できる形で考える本をご紹介します。
「自分を「会社のように」経営する人生戦略」とあるように、戦略的に自分の人生とキャッシュフローのことを考える為の本です。お金は簡単に言うと「稼ぐ」「遣う」「貯める」「殖やす」という4つのサイクルから成り立っており、この4つを上手に回そうとする意識が高い人ほど、お金を引き寄せる能力が高いと書かれています。
(1) 稼ぐこと=「会社からお給料をもらうこと」だと思われる方も多いかもしれませんが、もっと掘り下げれば、信頼や期待を集められたから、その対価としてお金が支払われたということであり、信頼や期待が稼ぎに直結しているのです。ゆえに稼ぐためには、たくさんの信頼、期待を集める必要があるのです。
(2) 遣うこと=「支持を表明すること」。支持も共感もしていないのにお金を遣うのをやめれば、無駄遣いが減っていくと思われます。
(3)貯める=「先行投資、不測の事態への備え」。今、自分は使わない、という選択の結果です。
(4)殖やす=「なにかに賭けること」投資家として社会参加をする。生きていくことは賭けを続けていくことであり、成功は「賭ける人間」だけに与えられる。
今、どれだけ稼いでいるか、何を得ているか、どれだけのお金が手元にあるか、資産があるかは、自分が行なった選択、判断の結果であり、ただ沢山稼いで貯めればいいというものでもないのです。エピローグで著者は書いています。
「しんどいことも多かったけれど、この仕事だけはやめられなかった。お金は、そのご褒美として、思いがけずあとからついてきたものでした。」
いい仕事があるところに、いいお金の循環がある。お金の為にする仕事ではなく、したいと思える「仕事」ってどんなものなのでしょう。
1冊目でご紹介した『億男』の著者、川村さんは最近インタビュー集も出されました。
生きているほとんどの時間、私たちは仕事をしている。それなら、人生を楽しくするために仕事がしたい。そう思った川村さんが、各界の最前線で働いてきた、仕事で世界を面白くしてきた巨匠たちにインタビューした1冊。
「僕と同じ年の頃、何をしていましたか?」
「仕事で悩んだとき、辛いとき、どうやって乗り越えましたか?」
川村さんの問いかけに返ってきたのは千差万別の答え。答えからヒントを得ようとするのはもちろんなのですが、私が励まされたのは超人ともいえる各界の巨匠でも、私たちと同じような壁にぶつかり悩んだという事実でした。
そして大きな功績を残して、大御所となった今も、現在進行形で夢があり、実現に向けて動き続けておられるのです。一流の人は決して歩みを止めないのです。一流の人たちは大きな成果を上げるために、少なくない額のお金を遣う必要がありますが、それが集まるのは彼らが信用されているからです。
しかし持て余すようなお金は、時に生みだすものをダメにしてしまいます。この本の中でインタビューされている杉本博司氏が、著書『空間感』の中で下記の通り書かれています。
「私は奇妙なセオリーを考えた。スターアーキテクトと呼ばれる建築家の作例では、概して低予算のものほど質が高い。予算と質は反比例する、という説だ。予算がないとコンセプトに対してぎりぎりのそぎ落とした空間ができる。なまじ予算があると装飾や思いつきに手をだしてしまうのはスターでもヒラでも同じだ。」
「人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの少しのお金さ」
過ぎたるは猶及ばざるが如し。バランスよく、無理せず、滞りなく循環させていくことに気を配りながら、上手に生きていきたいものだと、改めて思いました。
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