HONZに参加させていただいて以降、新しい言葉に触れる機会が増えていて嬉しいことです。最近知った言葉の一つが「エピジェネティクス」。今回は仲野徹さんの『エピジェネティクス』をテーマにしてみます。
まず読者層です。
85%以上が男性読者という圧倒的な男性率で、60代がボリュームゾーンとなっています。他の生命科学の書物は50代がボリュームゾーンになっている銘柄が多いのですが、若干平均年齢が高めになっているようです。ちなみにこの本、大学生協でとても良い売上を上げているのですが残念ながらこのWIN+のデータにはその売上分が入っておりません。残念!!そのデータを加味するとハイティーンから20代前半の読者がぐぐっと増えるはずです。ご参考まで。
続いて、『エピジェネティクス』読者の併読本です。以下は2014年5月以降に購入した本のランキング10位までの結果です。
RANK | 銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 |
1 | 『日本は戦争をするのか』 | 半田 滋 | 岩波書店 |
2 | 『生命誕生』 | 中沢 弘基 | 講談社 |
3 | 『中国絵画入門』 | 宇佐美 文理 | 岩波書店 |
4 | 『仕事道楽』 | 鈴木 敏夫 | 岩波書店 |
4 | 『集団的自衛権と安全保障』 | 豊下 楢彦 | 岩波書店 |
6 | 『瞽女うた』 | ジェラルド・グローマ− | 岩波書店 |
6 | 『納得の老後』 | 村上 紀美子 | 岩波書店 |
6 | 『医療の選択』 | 桐野 高明 | 岩波書店 |
9 | 『ドキュメント豪雨災害』 | 稲泉 連 | 岩波書店 |
9 | 『非線形科学 同期する世界』 | 蔵本 由紀 | 集英社 |
全て教養新書が並びました。生命科学の本が並ぶと思いきや、『中国絵画入門』にも興味をもち、『集団的自衛権』についても考えている読者層の正体は「岩波新書ファン」だと推察されます。
出版業界的な内輪話になりますが、岩波書店の本は「買切」扱いとなり、日本の出版物では当たり前とされている「返品」が出来ません。確実に手に入れるために、「岩波新書の新刊は必ず買うから」と決まったお店で定期購読的な買い方をしているお客様がいらっしゃいます。その存在をこのリストに見つけてなんだか嬉しい気持ちにさせられました。他の生命科学本と比べ、平均年令が高かった理由もここにありそうです。
ふと興味を持ち、今の時期のAmazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」を眺めてみました。8月上旬現在、「エピゲノム」「生命科学」というタイトルが並び岩波新書は出現しません。書店店頭とECでの購入行動の大きな違いがこんなところで見つけられました。
参考までに、5月に発売になった他社の教養新書の併読商品も調べてみましたが、ほとんどの銘柄について、併読商品は社を問わず類似テーマの新書(発売日の比較的近いもの)が並ぶ結果となっています。教養新書はテーマ・単品で売れていく時代と考えられていますが、それでもまだ、岩波ブランドの強さは不動のようです。
上記ランキング2位にランキングされた『生命誕生』
読者も発売日も近い銘柄です。この2冊をあわせて購入した読者の購買履歴から、これからのこのジャンルの注目銘柄いくつかを紹介していきます。※著者インタビューはこちら
コンクリートとアスファルトが敷き詰められた都会にも、いたるところで植物が見つけられます。「なんて逞しい!雑草のように生きなきゃ!」なんて人間のお手本にされつつあるこの植物たち、でも実はこうしたスキマは彼らにとっての楽園なんだそうです。なんだ、楽しく生きてるんじゃん…とちょっと気持ちが醒めましたが、名前だけでなくその植物の情報を得ることが出来るカラー図鑑。散歩のお供にオススメです。
「バイオテクノロジー」という言葉を聞いて、どんなものが想像されるでしょうか?薬の開発、クローン技術、遺伝子操作などその範囲は非常に広範にわたっています。本書は教科書という名のとおり基礎的なものから応用、今後の展望までがわかりやすくまとめられていると評判です。ここで興味を持ったテーマについて、次の1冊を探してじっくりと知識を深めていく、という読み方も出来そうです。
警察の捜査は科学によって支えられているといっても過言ではありません。DNA鑑定やビックデータ解析など良く耳にするキーワードと、最近起こった実際の事件を結びつけ、その成果を説明していきます。サイエンスに興味のある読者、ミステリ好き読者の双方に支持されている1冊。
ファンタジー作家の上橋菜穂子さん(先日、国際アンデルセン賞という大きな賞を受賞されました)はその作品の中で、民族や人を描く時に彼らが普段食べている食べ物や飲み物を細かく描写します。「その土地ならではの土壌と気候が食べ物を通じて人や考え方を作っていくのだな」と小説を読みながらいつも感じていたものです。この本では、実世界の穀物の多くの視点から読み解いてくれています。コメを食べるアジア、小麦を食べるヨーロッパ。食べ物を通じて世界が見えてきそうです。
最近発売された岩波新書の中で、『エピジェネティクス』読者に最も人気なのがこちら。生命科学への興味と期待は医療問題と大きく結びついているのかもしれません。超高齢社会の到来を目の前にして、私たちにどんな選択があるのかを様々な角度から論じた作品です。
ここのところ、STAP細胞の問題・医薬品の論文ねつ造など、一般人がメディアを通じて触れる事の多いニュースは負の情報の方が多くなってしまっています。しかし、一方で世の中は熱心な研究者や優れた技術者の努力による技術進化は着々と進んでおり、まだまだ解明されない謎の中に可能性が潜んでいるのです。受動的にニュースの表面を受け取って心を乱されるだけに終わらず、こういった本から科学の今・未来を知るところまで一歩進んでいきたいとしみじみと考えさせられました。
古幡 瑞穂 日販マーケティング本部勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事。