あなたはもうすぐ40歳。いわゆるアラフォーと言われる年頃である。独身で、当然仕事も持っている。趣味は北欧雑貨を集めること。少しずつ増えていく可愛い雑貨を見ていて、あなたはちょっとした決意をする。
そうだ、これを売ろう!
しかし、今のままでは頭の上にほわんと浮かんだ夢に過ぎない。普通なら夢は夢のままで終わってしまうもの。しかし、父親の突然の死と、今まで住んでいた賃貸の部屋を引っ越さなくてはならなくなったことが重なり、あなたに天啓が訪れる。
40歳で家を建て、45歳でショップの店主(副業で趣味レベル)になる
“女子”と呼ばれるのが少々キツくなり、世の中のことが概ねわかってきた年頃だが、気合も気力もまだ十分。著者の塚本佳子さんが「女ひとりで家を建てる」と決めたのは、本当にいい頃合いだったのだと思う。
本書は、決意したのはいいけれど、果たして何から手に付けたらいいか、というところから始まっている。
今、都会で家を手に入れようと考えた時、第一の選択肢となるのはマンションだろう。新築、中古に関わらず多くの情報がすぐに手に入り、不動産屋を訪ねれば手ぐすねを引かんばかりにすり寄ってきて、手品のように多くの物件を紹介してくれる。
当然、塚本さんも新築マンション情報から収集し始めた。しかし思ったよりも価格が高く、建築中から募集が開始されるため、完成後の姿を想像しにくい。内装についても選択肢が少なく彼女の思い描く通りになるかわからない。
中古マンションやコーポラティブハウスも考えたが、一世一代の買い物、やはり思った通りの家が欲しい。ならば、一軒家。それも計画の最初から好きなようにやりたい。大きな家は必要ない。一人で暮らせて週末は小さなお店が開ける、そんなおうちが欲しい。
様々な選択肢のなかから、塚本さんが選んだ方法は、土地さがしからアドバイスしてくれる建築家に頼むことだった。多くのサポートサービスのある建築事務所をセレクション。精密な模型を作ってくれる建築家を選び依頼する。フットワークも軽く、多くの業者を訪ねセミナーに参加し、関係図書をむさぼり読む。自分が譲れないのは何か、一番必要としていることはどんなことか。知識が増えるたび、ふわふわしていた夢が形になっていく。
もちろん現実は甘くない。お金の問題、時間の問題、業者との相性などなど、クリアしなければならない問題が次々襲い掛かる。理想の家を建てるのは甘くない。時に悩み苦しみながら、本当のところでは、塚本さんは楽しそうだ。
こだわるなら徹底的に。水回りの器具からドアの取っ手、照明器具にカーテンも、気に入るものが見つからなければ、手作りだって厭わない。建築家と丁々発止のやり取りは、本を読んでいるほうが「もうそのへんで…」と言いたくなるほど怖い。
そして2年後、出来上がったのは建築面積たったの7坪、4000万円ほどの東長崎駅から徒歩3分の角地に経つ極小住宅。半分は週末「fika」という北欧雑貨のお店になる。3階まで吹き抜けのショップには、北欧で買い付けてきたお茶に関する可愛いらしい品物が並ぶ。
居住部分は、写真で見るだけでも解放感いっぱい。光がさんさんと降る部屋でごろんと昼寝がしたくなる。
こだわりにこだわり、わがままいっぱいに造った家は、多くの人の関心を呼び、見学に来る人もたくさんいる。2013年の東京建築士会住宅建築賞も受賞した。
ふと周りを見回すと、独身、あるいはバツイチの女性が“家を買う”という話をよく聞くようになった。新築マンションが多いようだが、建てた人も少なくない。話を聞けば、彼女たちのこだわりもハンパではなく、自分で稼いだお金だからと、つぎ込む金額も驚くほど。でも、努力した分だけ、みんな満足しているようだ。
女が一人で家を持つこと。漠然と考えているあなたに、ぜひこの本を勧めたい。塚本さんのノウハウは、きっとあなたの背中を押してくれる。
夕暮れに浮かび上がる、こんな素敵な家。週末にちょっと訪ねて行こうか。
(写真は編集部からお借りしました)
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私は人が家を建てる話が好きらしい。
時代小説作家、佐伯泰英が全面改築をした名建築のすべて。レビューはこちら。