14年前、オンライン書店e-honの商材担当になり、毎日100冊を超える新刊を1点1点、手にとって吟味するようになりました。30代始めの5年間。とても貴重な経験でした。そこから、自分のキャリアは始まったようなもの。当時の上司には、心から感謝しています。以来、本と読み手の幸せな出会いを生み出すため、仕事を続けてきました。
人前に出て恥ずかしくない知識は蓄積されてきたはずですが、テレビ埼玉の「ごごたま」という番組で“ブックマスター”として本を紹介するようになり、あらためて感じたことがあります。本の素晴らしさを相手にプレゼントするためには「伝え方が大事」だということです。5月のこれから売る本、テーマは「伝える」です。
伝える時には、まず最初に「伝えたいこと」があります。そして頭の中で格闘があって、「言葉」が紡ぎ出されるわけです。この本を読むと、その道のプロフェッショナルにとって、この行為がどれだけ過酷なものなのかが伝わってきます。私ももっともっと、本を紹介するための言葉と格闘すべきなのかもしれません。ちなみに私がはじめて、開高健さんに興味をもったのは『オーパ!』でした。最初は、釣り好きのオッサンくらいにしか思っていなかったのですが、その後『青春の闇』などの評伝を読んで、それがとんでもない間違いだということがわかりました。最近、私もときどき「競馬好きのオッサン」を気取ることがあります。でも、
本当にそれだけだったりするもんナ・・・。
と、開高さんの名コピーを真似てみますが、なんだか全然冴えませんね。少し解説を加えますと、書名の「壽屋」は現・サントリー。有名な「『人間』らしくやりたいナ・・・」というのは、トリスウイスキーのコピーです。『裸の王様』で芥川賞を受賞し、作家として活躍されたのはご存知の方が多いかと思います。しかし本書は、コピーライターとして、広告人としての開高健の足跡を、サントリーの広報誌の編集を担当し開高さんから「モテまっちゃん」と親しまれた著者が綴った一冊です。
1958年、開高健の推薦で壽屋に入社したのが、後に直木賞作家となる山口瞳さんです。毎年、この季節に売行きが伸びる『礼儀作法入門』が書店ではお馴染みですが、世間的には、直木賞を受賞した『江分利満氏の優雅な生活』や、コピーライターとしての代表作「トリスを飲んでHawaiiへ行こう!」でご記憶の方も多いかもしれません。私としては、競馬が好きな作家として、寺山修二さんや浅田次郎さんらと並んでとても馴染みがある作家さんです。
本書も、競馬場の帰りに立ち寄った本屋さんで買い求め、子供のころ父に連れられていった居酒屋で、ポテサラをつまみながら読ませていただきました。読んでいると、遠くで豆腐屋さんの笛の音が聞こえてくるようでした。全体に漂う、馥郁たる昭和の香り。でもどこか、ピンと張り詰めたものを感じ、襟を正す気持ちになったのも事実です。もしかしたらそれは、「こんな生き方があっても良いじゃないか」という、パイオニアとしての矜持なのかもしれません。
私にも、当たり前のものは君たちに任せたから「それはそれとして違うことをやろうよ!」と、自分の心に素直に生きようとする矜持が常にあります。そんな内容の本書所収の「競馬必勝法」には、とくに共感するところ大でした。
自分を見失っていては、何かを伝えることは困難です。伝えたいことを見つけるのも、それを表現するのも自分なのですから。そういう意味で、本書はまず最初に学ぶべき本なのかもしれません。レジリエンスとは、どん底から這い上がる精神回復力のこと。著者は多くの人材を輩出しているP&Gというグローバル企業で、たくましいエリートと脆いエリートの違いを長く見てきた元幹部の方です。本書を読んで、ソチオリンピックでの浅田真央選手の素晴らしいフリー演技は、まさしくこの力によるものだと感じました。
浅田選手の演技のあとに特に外国からの賞賛の声がネットにあふれましたが、グローバル企業では、人の能力を判断する際にIQや学歴よりもレジリエンスが重視されるそうなのです。最近日本でも、本が複数刊行され、テレビでも紹介されるようになり、この言葉を耳にする機会が増えました。私はここ1週間、この本を何度か読み返していますが、学ぶ点が非常に多い本だと感じています。それはこの本が、日本にレジリエンスを伝えるために、著者がP&Gを辞め、心血を注いで6年で書き上げた本だからだと思います。この本は間違いなく、お金のためでも、出世のためでもなく、伝えたいことのために為された仕事なのです。私は、こういう本を見つけて世に広める仕事をしていきたいと思っていますし、伝えることの本質はそこにあると信じています。
話は変わりますが、あなたはExcelで表を作るとき、どんなフォーマットで作りますか?私はいつも、表を範囲指定して、罫線の太さを指定してオ・シ・マ・イです。皆さん同じじゃないですか?実はこの種の日本人Excel資料は、グローバル企業では嫌われているようなんです。本書を読むと「あぁそういえば、こういう見やすいフォーマット、見たことある、ある!」という表が掲載されています。縦罫がなかったりする、シンプルなアレです。縦罫がなくても、数値が揃っていれば、間違えることはないんですもんね。
本書は、出版社さんの予想を良い意味で裏切り、発売後1ヶ月でナント5万部を突破!男女年齢問わず、金融系以外の一般ビジネスマンにも売れているそうです。もしかしたら、日本人ビジネスマンのExcel資料に革命を起こす、エポックメイキングな一冊になるかもしれません。私は書いたり話したり、いずれにしても言葉で伝えることにこだわりたいと思っていますが、手っ取り早く会社のなかで認められたい方には、こういう「伝え方の技術」を学ぶほうが得策かもしれません。新入社員の皆様、いかがでしょうか。
さて、最後に『「レジリエンス」の鍛え方』に“2020年に向けて新しいことに挑戦しよう!”と書かれていました。私には、以前から「2020年にはこうありたい」という夢があります。コンテンツ/伝える力/逆境力の3要素で、一歩一歩、その夢に近づいていきたいと思っています。それまでに色々な逆境があると思いますが、「逆境なんて、ラララ、ラララ、ラ~ラ~」と乗り越えてみせます。名コピーって、本当にいいですね。
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。ほんをうえるプロジェクト TEL:03-3266-9582