私は、犬嫌いです。犬の存在を初めて意識したのは、小学生のころでした。「タスケテーッ!」と叫ぶ妹の声が、私と母の耳に届きました。声のほうに急ぐと、犬に追われてガケ下に落ちた妹の姿がありました。幸い大事には至りませんでしたが、以来犬のことを憎々しく思って過ごしてきたので、良い想い出がないのです。ある年の桜のきれいな季節のサイクリング中に、赤信号で停車しました。そのとき、散歩中のワンちゃんのまさに目の前に私の右足が着地し、くるぶしあたりをガブッと噛まれたこともありました。
桜が美しければ美しいほど、あの痛い事件を思い出します。それでは、4月の「これから売る本」をご紹介させていただきます。
人間は、脳の一部しか使ってないといわれています。犬嫌いの私は、自分の脳の開発に挑戦するため本書を手にしました。こういう挑戦は、失敗することもたくさんありますが、今回は大成功。結局私は、本書を読んで感動し、直接、著者のアネラさんに会いに行きました。今回の読書体験を通じ、私は著者さんの生き物に対する温かい眼差しが大好きになりました。
あぁ、私もこういう眼差しがもてれば、犬たちと楽しく過ごせるようになるかもしれない。と自分を省みました。私に嫌な想い出があるだけで、もともと犬が悪者というわけではないのですから。人も同じなのかもしれません。皆さんもご経験があると思いますが、いきなり噛みついてくるような人もいて時に生き辛さを感じる世の中ですが、でも、本当は「自分次第」なのではないでしょうか。
犬と会話ができるなんて、あり得ない。そんな風に、自分の世界を狭めないで、ぜひ本書を読んでみてください。ネットでリコメンドされた同じような本で本棚が埋まっていませんか?それはあなたの脳の縮図です。たまにはぜひ、自分を広げる読書にも挑戦してみませんか。まだまだ、人間には、未開発の力が埋もれているのですから。
私は、週10時間以上、本を読みます。以前は、週何冊というペースを念頭に置いていました。しかし、途中で読むのがつらくなる本があり、読書が義務的になってしまいました。読書は、活字を目で追う作業ではなく、心を動かしてはじめて意義があるのです。読み方は、速読でも精読でもなく、本に応じて自然と読むペースが変わるのに任せています。鞄の中には、常に3冊程度の本が入っていますが、何を読むかはその時に決めます。読みたい本がその中になければ、本屋さんに駆け込みます。
最初に長々と自分の「本との接し方」を書いたは、レビューとして大失敗かもしれません。でもそれが、外山滋比古さんが本書で書かれている「接し方」に近いように感じ、あまりに嬉しかったのです。私は、15年くらい、本を発掘して人にお薦めする仕事を続けてきました。様々な読者の顔を思い浮かべながら、お薦めする本を選んで読んでいると、結果的に乱読になってしまいます。でもその結果、新しい世界に出会えるということを、経験として私は知りました。
専門分野の知識を増やしたり、固定観念を補完するだけの読書ではなく、今後も乱読による出会いを求めていきたいです。いつまでもピシッとせず、フワッとした人格であり続けるという副作用は、避けられそうにありませんが。笑。
著者は、マークトゥエインやフォークナーなどの英米文学を翻訳した後、老子に関する本や、ベストセラー『求めない』『受け入れる』を著した加島祥造さんです。英語で老子を読むという偶然の出会い(=西洋と東洋をつなぐエンカウンター)によって、人生が大きく展開。その時に生じた「伝えたいこと」が、多くの読者の心を動かしてきたわけです。本書には、そのエッセンスが100話つまっていて、読み応えがあります。
この本の素晴らしさを、一言で伝え切れないのは非常に残念です。何かを「良い」と分別することで「悪い」が生じてしまうように、ここで私が「こういう本」だと伝えると、そのそばから別物になってしまうように感じるからです。ただ、そのエッセンスの一つを紹介させていただければと思います。
少年の頃に「みんな偉くなれよ」という言葉に違和感を抱き「僕くらい偉くならなくてもいいや」と思った人がいました。その人は、96歳になっても活き活きと生きてらっしゃったというのです。これは、「興味のないものにこだわっていると老化しちゃうよ」というエッセンスでした。私も、クラス中の女子からチョコレートをもらった日に、グラグラと自分が崩壊する感覚を抱いたのを思い出しました。
桜を見て犬のことを思い浮かべ、自然な流れで、ここで紹介した本を数冊読みました。その読書によって、自分にも世の中にも、まだ隠された大きな力があり、それは偶然によって開かれるということを学びました。本は、読んだ人だけでなく、読んだ時によって、全く価値が異なるものです。一見何のつながりもないこれらの本をつなげたのは、私であり、今という時なのは、間違いありません。人にはそれぞれ決断の「時」があるそうですが、折角の「時」も、主体的に生きてないと見逃してしまうものだと思います。
この『作家の決断』という本を読むと、そのことがよくわかります。「日本一、給料が高い会社」をやめた津本陽さん、「組織の中にいることが自分には向いてないってはっきりわかった」という西木正明さん。作家として成功された方々は、周囲に流されず主体的に生きて、作家の決断を下しています。大好きな浅田次郎さんは、「努力は不思議なもんでね、そのとき無駄になったように思えても実は無駄になっていない」と書かれていますが、これを読んだとき、なんだか目の前がパッと明るくなる感じがしましたね。
誰しも、心に灯(ともしび)があると思います。私の心のなかには、大学の恩師からいただいた「実はまだ、光合成のメカニズムすらわかってない。がんばれ」という言葉が灯り続けています。わかっていることは、まだ世界のほんの一部に過ぎません。自分の脳や世界のまだ見ぬ9割に出会うために、目の前の損得から受ける作用によって常識に自分を合わせることをしないで、主体的に生きてセレンディピティを見出す、そんな価値ある生き方をしていきたいですね。
吉村博光 トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんを、えるプロジェクト」に従事。
ほんをうえるプロジェクト
TEL:03-3266-9582