夢よもう一度!『中級作家入門』

2014年2月26日 印刷向け表示
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中級作家入門 (中級新書 1)

作者:松久 淳
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2014-01-30
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間違えないでほしいのだが、本書は『中級/作家入門』ではない、ということ。作家入門に初級も上級もなく『中級作家/入門』と読むのが正しい。じゃあ、中級作家とは何かといえば、現役作家ランキングで、100位から200位くらいに位置すると思われる作家たちを著者はこう定義したのだ。

果たして作家(小説家)は、今、日本に何人ぐらいいるのだろう?最大の規模だと思われる日本文藝家協会の会員数は、平成24年4月1日現在2537名、著作権管理委託者数は3671名、日本ペンクラブは2012年12月17日現在1758人、エンターテイメント作家の組合としては最大の日本推理作家協会は2013年7月30日現在668名が加盟している。それぞれの協会に重複して参加している人も多いので「作家」と呼んでもいい人は1000人弱じゃないだろうか。

その上位100から200ならたいしたもんだ、と思うのだが、これが意外と地味で堅実、貧乏とは言えないけど決して裕福ではない実情が切々と語られるのだ。原稿料や出版社、編集者とのつきあい方から仕事の取組み方法やSNSへの考え方、そして年を取り体が弱ったときの対処法まで懇切丁寧といえばそうだし、細かいと言えば相当細かいレクチャーが進められる。

著者の松久淳の名前を見て「あれ、どこかで見たような」と思った人はなかなかの本好きである。彼の著作で一番売れたのは『天国の本屋』(かまくら春秋社)という田中渉とコンビで書いた小説だ。持ち込み原稿が直接本になるというのも珍しいし、ふたりで書くというスタイルも、全くいないわけではないがメジャーな書き方とは言えない。田中渉がアイデア、松久淳が執筆という形態は、あれ、最近どこかで聞いたような…

上梓したのは2000年の暮れだが当初はまったく売れなかった。

しかし1年半後、奇跡が訪れる。盛岡の「さわや書店」の店長、伊藤清彦さんがこの本を気に入り、店頭で熱心に売っていたところ火が付いた。地元の媒体に紹介したり、他社の営業マンたちが口コミで広げてくれたりして、朝日新聞の全国版に「地方発信の小説」という記事が載ったところで大ブレイクとなる。

ちょうどその頃、そろそろ町の本屋さんがネットの本屋に押され始め、独自の路線を開発しようとしていた矢先だ。98年にテリー・ケイ『白い犬とワルツを』を津田沼の昭和堂でポップを付けて販売しヒットしたのを皮切りに、書店員が面白いと薦める本が売れる、という現象が起こった。それは現在でも続いており、書籍の帯の推薦文には様々な書店員の名前が並ぶ。その流れが2004年に始まった本屋大賞に続いていると思う。

それはともかく『天国の本屋』は売れた。16刷までなり映画化もされた。シリーズ化され多くの読者を獲得した。その売れっ子が、なぜ今「中級作家」なのか。それは一種の燃え尽き症候群のようなものだったらしい。30代最後の年に「40代で新しいスタートを!」と頑張ってしまった結果うつ状態に陥ってしまったのだ。

最悪の状態を救ってくれたのは、公私ともに世話になっていたみうらじゅん氏の言葉だった。

松ちゃん、それ、ただのスランプだよ。『Dr.スランプ』以降、スランプが流行っていなかったから、忘れているだけだよ

おお、みうらじゅん、かっけー!なんか鬱々と暮らしている中年の男に一回言ってみたい台詞である。もちろんこの一言ですぐに抜け出せたわけではないけれど、今では自虐的ではあれ、この本を書けるほど客観視が出来るようになったのは喜ばしい。

さて、本書のほとんどは作家になるためには何の参考にもならない。新人賞を受賞したばかりで、期待に胸震わせているような作家にはかえって毒だ。しかし、ごく一部のベストセラー作家には届かないが、食べていくには困らない中級作家の生態を知る事ができるのは、やじうま心を刺激する。こういうペーソスあふれる男の後ろ姿は、きっと魅力的に違いない。

ご存知の方も多いだろうが、ちなみに私は超売れっ子作家の秘書を長いことしていた。でもはじめはまだ駆け出しで、どれくらいの作家になるかなんてわからない、それこそ中級作家だったのだ。(秘書になったのはデビューして4年目のこと。今思うと、その状態で秘書を雇うという度胸がすごい)

本書を読む限りにおいて、松久淳はとてもまじめで締切は必ず守り、その上仕事がすこぶる早いらしい。文章も、編集者から「上手ですね」と褒められるそうだ。(……)運はどこに転がっているかわからない。もしかしたら、まだどこかの街でステキなPOPが書かれ、ベストセラーの階段を上がっているかもしれない。でも次は、多分きちんと対処できるだろう。亀の甲より年の功。しかし心から思うけど、小説家ってものすごく大変な仕事なのよ。
 

新・何がなんでも作家になりたい!

作者:鈴木 輝一郎
出版社:河出書房新社
発売日:2013-08-14
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 作家志望、あるいはなったばかりの人に、一番役に立つ実用書。
 

小説講座 売れる作家の全技術  デビューだけで満足してはいけない

作者:大沢 在昌
出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2012-08-01
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言わずと知れた超売れっ子作家のひとり。この本の編集者と『中級作家入門』の編集者は多分いっしょ。私のレビューはこちら

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作者:成毛 眞
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