STAP細胞の小保方さんの話題に、私もワクワクさせられました。ニュースでは、人にスポットがあたったり、研究自体にスポットがあたったり様々でしたが、私が注目したのは世に出るまでの経緯でした。一度「長年の研究の歴史を愚弄する論文である」と否定された点です。苦労して研究者としての常識を身にまとい、内向きの努力をして立身出世を目指している人から見ると、おそらくカチンとくる論文だったんだろうと想像しました。「自発的対称性の破れ」もそうですが、新しい発見には研究の常識から“視点をズラす”ことが必要なんだと、あらためて感じました。
基本的には、今回論文を読んだ方のように、「常識的な考え方」に追い詰められてしまうのは、真面目で頭が良い人なんだと思います。それを避けるために、読書をすることはとても効果的だと思います。今月は“視点をズラす”本、“副交感神経が優位になる”本をご紹介いたします。
それにしても、世の中には、凄い人生を歩んできた人がいるものです。本書は、サルの家族に育てられた女性の話。文句なく、面白い本でした。私たちは、日本の教育の枠の中で成長していきますが、生きていくために本当に必要な教育は何なのでしょうか。この本の著者(女性)は、5歳頃誘拐され、ジャングルに置き去りにされました。「眠気が吹き飛んだ。無数の目に見られていた。サルたちが、草地に数歩の間を置いて私を遠巻きにしていた。無表情の顔、顔─。鳥肌が立った。(中略)ところが、見つめ合っているうちに、恐怖が潮のように引いて行くのがわかった。家族のようだった。」このリアルな描写は、本人でないとできないものでしょう。
それから数年間、サルの家族に育てられた少女は、その後の半生もさらに壮絶なものでした。ストリートチルドレン、犯罪一家…何度も自由を奪われた後に、チャンスが訪れ、一人の女性に助けられました。今では、生物学者の夫との間に二人の娘をもうけ、三人の孫に囲まれ幸せに暮らしているそうです。本書の冒頭にある次女の文章を読むと、著者がどれだけ深い家族の愛に支えられているかがわかります。幸せな家庭を営む力は、サルからでも学べるということでしょうか。
本書を読んで、子供にとって必要なのは知識を詰め込むことではなく、自分を受け入れてくれる大人たちの「まなざし」だけなのかもしれないと思いました。そう、少女が目覚めたときの、サルの家族のような。面白いうえに視野が広がり、副交感神経優位にしてくれる本。続刊が楽しみです。
大学入試は私にとって鬼門でした。試験範囲が広すぎるからです。困った私は、各大学の試験科目一覧を眺め、英語と国語と小論文でOKという優しい学校を発見しました。そして、英語だけを勉強し、後は本を読んで過ごすという戦略をたてたのです。そんな時に予備校で出会ったのが、本書の著者であり『ガープの世界』の翻訳者としても有名な、筒井正明先生でした。
他の教科書は頭に入ってこなかったのに、この先生のテキストだけは違っていました。バートランド・ラッセル、サマセット・モーム、アーノルド・トインビー…掲載されている英文が、私にはとても読み応えがありました。内容を知りたくて、多少苦労してでも読み進めていくと、その結果として英語力がついているという感じでした。昨年、本書を偶然本屋さんで見つけページをめくると、当時の授業の様子がまざまざと蘇ってきて、思わず買ってしまいました。英語の勉強をする予定はなかったのですが、それ以降、勉強というより読書の楽しみの一つとして少しずつ読み進めています。期待に違わず、大変読み応えがあります。読み終わった後、英語力とともに若さが戻っていると嬉しいですね。(それはないかな)みなさんも、時には“視点をズラして”学習参考書の売り場に、足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
筒井先生の本とは違い、残念ながら、試験に役立つことは“ほぼ”ありません(笑)。でも、私がこの本をオススメするのは、やはり“視点が変わる”からです。出る順で覚えるのが効率が良いのは当たり前ですが、ときにはフッと息を抜いて本書に向かう勇気を持つくらいが「どんなときも」良いと思うのです。研究にも、仕事にも、同じことが言えると思います。人に勝つこと、増売、効率、コスト減…こういうことにばかりに固執していると自律神経がやられてしまい、かえって成果も出なくなるのではないでしょうか。ぜひ、そういう意味で、この本の価値を感じてほしいです。
本書は、「Chocorooms(きのこの山)」「Calpico(カルピス)」「horny(ムラムラ)」などの役に立たない英単語とイラスト、くだらない例文そして「オチとなる一言」で構成されています。一度ププッと吹き出したら最後、ページをめくる手が最後までとまりません。まずは、本書のfacebookページで中味画像をご覧ください。
「見上げてごらん、夜の星を」じゃないですが、星空を眺めていると、日常の嫌なことから開放された気分になります。同様に宇宙の本を読んでいると、ものの見方が大きくなり、小さいことにクヨクヨするのがバカらしくなってきます。難しい宇宙本が、これまでに何冊もベストセラーになってきたのは、その辺の心理と無関係ではないでしょう。でも、それらの本を読んで挫折してしまった経験がある方は、多いのではないでしょうか。
でも本書なら大丈夫。といっても、内容が易しすぎるわけではありません。まだ文字を読めない子供は、読み聞かせのときには「挿絵」を頼りに想像をふくらませます。本書には「カラーの図解」が盛りだくさん。だから知らない宇宙用語が出てきても、想像が広がり理解が深まります。文章も、なんだかちょっとした、物語のようなのです。こんなに親切な宇宙本は、あまり見たことがありません。この本を読むと、宇宙の全体像がわかり、帰り道に夜空を見上げたくなることが増えるかもしれません。
おっと!冬の夜空は魅力的ですが、歩きながらのよそ見は危険ですのでご注意を。まぁ、スマホばかり見ているよりは、余程ステキだと思いますけどね。
吉村博光 トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。TEL:03-3266-9582