「男の子の理想の人生」――本書の読後感はこの一言に尽きる。
国家、産業、技術、芸術――なんでもいい。あるものの勃興期に生まれ合わせ、その盛り上がりと共に人生をおくるというのは素晴らしい、得難い幸運である。
本書のタイトルとこの解説文に惹かれて、本書の購入を決意。早速、家に帰って本書のページをめくってみると、期待通り読んでいてワクワクする夢のような人生が描かれていた。
本書は、ボーイング747の生みの親ジョー・サッターが自らの人生を綴った一冊。航空機産業の興隆に時を同じくして生まれた生粋の飛行機少年が歴史に残る航空機の開発を指揮するようになるという夢のような人生だ。好きなことを仕事にして、歴史に名の残るようなプロジェクトを任される人生とは、なんともうらやましい限りである。
著者が開発したボーイング747とは、「ジャンボジェット」の愛称で親しまれ、1969年の初飛行以来、長期にわたって国際路線の花形として世界の空に君臨した超大型長距離旅客機。1960年代当時の国際航空旅客機の主力は機内通路が1本で乗客数150~200人の機体であったが、それを一変させたのが、機内通路が2本と幅広で乗客数400人以上を輸送できる超大型旅客機ボーイング747だった。
一度の航行で従来旅客機の2倍以上もの乗客を輸送できた超大型旅客機は、航空料金の低廉化に大きく寄与し、一般庶民にとって高嶺の花であった航空旅行を身近にした。ヒト・モノが行き交う今日のグローバル社会を形作ってきた画期的な機体である(ちなみにカネ・情報を流通させたインターネットはボーイング747と同じく1969年生まれ!)。
このフラグシップ旅客機の開発ストーリーが本書の主題。物語は1921年、ボーイング社の本拠地シアトルにとある少年が生まれるところからスタートする。テスト飛行を繰り返す新型航空機を身近で見ながら育つという航空マニアが羨む少年時代を過ごしたこの青年は、やがてボーイング社の門戸を叩き、ジェット機時代の草創期に設計技師として設計のノウハウを学んでいく。
1950年代後半、ボーイング社はプロペラ機の倍以上の速さと乗客数を誇るジェット旅客機の開発で成功をおさめ、民間旅客機の設計・製造の分野で他社を圧倒していった。そんなダイナミックな時代に30代で働き盛りの著者は、若くしてボーイング707、727、737などのジェット旅客機開発で重要なポジションをまかされていく。
これら開発プロジェクトで頭角を現した著者が、1965年、まだ40代の若さで任命されたのが超大型ジェット旅客機ボーイング747の技術開発リーダーだった。本書の一番の醍醐味は、著者がこの開発を指揮し始めてから完成するまでの4年間、巨大プロジェクトを推進する責任者の視点を味わえるという点である。
会社の経営が危うい時期に経営幹部からのリストラ要求、一方で開発スケジュールは厳守すべしとの矛盾ある指令、資機材調達先選定にあたって営業部門からの政治的圧力、若くして一大事業を担う著者に対する人事面での横槍、他国からのスパイ行為など、挙げればきりがない試練を著者はくたくたになりながらも一つ一つ対応していく。最終的に、幾多もの試練を乗り越え、ボーイング747が初めて空に飛び立っていくシーンではついつい目頭が熱くなってしまう。ぜひこの4年間の部分だけでも一度本書を手にとって読んでもらいたい。
本書は「ものづくり」に賭ける一人の男の情熱と使命感が伝わってくる感動的な物語であり、飛行機の予備知識なく楽しめる。読了後に「よし私も頑張ろう」そんな気分にさせてくれる一冊だ。
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『ボーイング747を創った男たち』
こちらは評伝であり、『747 ジャンボをつくった男』と二点セットでオススメだ。
『空の黄金時代: 音の壁への挑戦』
個性的な登場人物が繰り広げる人間ドラマ。こちらはパイロット側のストーリー。パンチョとジャッキーというふたりの女性がとても魅力的である。