『SEMPE IN NEW YORK』唯一無二の街 ニューヨークを描く

2014年2月7日 印刷向け表示
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SEMPE IN NEW YORK: ジャン=ジャック・サンペ ニューヨーカー イラスト集

作者:ジャン=ジャック・サンペ
出版社:DU BOOKS
発売日:2014-02-07
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ニューヨークは世界で唯一無二の街である。パリやロンドンにはそれぞれに個性があるもののヨーロッパの都市特有の佇まいがある。東南アジアには東南アジアの匂いが、南米には南米の色がある。しかし、ニューヨーカー(ニューヨーク人)とマンハッタンの摩天楼が醸し出す徹底的な上空への指向は他の街では見られない唯一無二の存在のように見えるのだ。人々は走るように歩き、倍速で話す。ビル群はさらなる高みを目指し、いまも伸びつづけているように見える。

しかし、それでいてニューヨークは世界中のビジネスマンにとってのホームタウンでもある。じっさい30年前から定宿にしているNewYork Hilton Midtownに泊まると、なぜかいつも故郷に戻ってきたような気がするのだ。早起きしてセントラルパークへ散歩に向かう途中、1ブロック先にある安レストランAstroに寄ってつまむ朝食。ビジネスアワーという嵐の前の静けさの心地よさ。いまでも東京以外で住んでみたい唯一の街なのだ。

そのニューヨークに住む人たちに愛されている雑誌がある「The New Yoker」(以下、ニューヨーカー)だ。1925年の創刊。先進国では雑誌がつぎつぎと閉刊に追い込まれるなか、1998年に81万部だった部数は、2013年には103万部に伸びている。その間に価格を2倍に引き上げているだからまさに唯一無二の雑誌といえるだろう。

HONZでも翻訳家の青木薫さんが「青木薫のサイエンス通信」としてニューヨーカーの科学記事から着想を得たエッセイを書いてくれている。もちろんサイエンスだけでなく、政治経済などの時事ネタや文芸作品も含めた総合誌だから、古くはトルーマン・カポー ティの『冷血』なども連載されていたし、いまでも村上春樹の短編が定期的に掲載されている。 この雑誌の表紙を30年間にわたって折々に飾っているのがジャン・ジャック・サンペである。

本書はサンペによるニューヨーカーの表紙イラストを中心に、エスプリの利いたインタビューなども掲載し、じつにステキな一冊に仕上げている。1932年フランス・ボルドー生まれのサンペはいまでもフランスに住み、ニューヨーカーだけでなくフランスの雑誌にもイラストや記事を提供している。

サンペによるとニューヨーカーのイラストに共通しているのは「品」だという。軽さ、ほのめかし、主張がないのだという。たしかに、格調や威厳があるというよりも、ニューヨーカーには品がある。その品は意外にも編集長とアートディレクターが選んだイラストが基底になっているのかもしれない。 紙面でイデオロギーを振りかざしたり、大衆を煽るスクープを狙うことなく、己に「品」を問う雑誌が売れないはずはないのだ。

1965年、サンペがはじめてニューヨークを訪ねたときの印象は「色」だったという。ニューヨークに は色が溢れていたというのだ。たしかにパリと比べるとニューヨークははるかにカラフルだ。しかし、その色調は東京や香港などに比べはるかに淡く、虹のように感じることもある。本書はイラストを楽しむ本だ。説明はこのあたりで切り上げて、さっそくその虹色のイラスト、ユーモアデッサンを楽しんでいただこう。
(イラストの掲載にあたってはDU BOOKS編集部からの許諾を得ております) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで全米でもっとも売れている雑誌をご存知だろうか。ナショナル・ジオグラフィック420万部、People360万部、TIME330万部、スポーツイラストレイテッド320万部、ニューズウィーク150万部などを大きく引き離し2250万部も売れている雑誌がある。AARP The Magazineがそれだ。

全米退職者協会(AARP)が出版元。50歳以上の人であればだれでも会員になれる非営利団体が発行する雑誌だ。 内容はマネー、健康、エンターテイメント、旅行、食など、いわゆる総合誌なのだが、サイトでは物販も就職斡旋も行っているから、まさに巨大総合ベビーブーマー向けサービスなのだ。アメリカのベビーブームは1946年から1959年。50歳以上の人々は消費の黄金期に入っているのだ。日本でもニューヨーカーに匹敵する品のある総合雑誌とともに、AARPの仕組みを学んだ新サービスがでてきても良い頃かもしれない。

 

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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