2013年に読んだ本の中からベストを選出してみます。出来る限り、「2013年に出た本」から選ぶようにしました。順位には強い意味はないのですけど、順位をつける方が書きやすいのでこのようなスタイルにしました。
1位
この本は、全国民が読むべき一冊だ。自らの「生」と引き換えに、日本を救った男たちの物語である。2013年7月9日、福島第一原発の所長だった吉田昌郎が亡くなった。58歳、食道がん。もし、あの時あの場所に彼がいなかったら、と思うとゾッとする。
「私はあの時、自分と一緒に”死んでくれる”人間の顔を思い浮かべていた」
そこまで彼を追い詰めた原発事故。“あの時”何が起こったのか、僕らは知っておくべきだ。
本書を読んだ方には、綾瀬まる『暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出』もオススメ。小説家である著者は、東北旅行中に震災に遭遇する。恐ろしい震動、転覆した列車からの脱出、避難所での心細さ、そしてボランティアとして被災地に関わるまでの、ちっぽけな人間の“ありのまま”が描かれている。
2位
世界でも最も有名な戦場写真の一つである「崩れ落ちる兵士」。ロバート・キャパが、銃で撃たれた瞬間の兵士を撮影したとされる、衝撃的な一枚だ。著者は以前、あるきっかけからこの写真への疑問を抱き、以来ずっとその謎を追いかけ続けてきた。
本書は、その集大成となる作品だ。沢木耕太郎の執念に物語の神様が微笑み、これまで誰も知ることのなかった衝撃的な真相へと読者は導かれることになる。(内藤のレビューはこちら)
3位
「誰もしないことをする」ことでお馴染みの高野秀行が目をつけたのが、アフリカ北東部のソマリア共和国内にあるソマリランド。国際社会からはまったく国家として認められていないが、内戦の続く崩壊国家であるソマリア共和国内で十数年も平和を維持しているという、奇跡のような場所だ。どうやったらそんなことがなし得るのか。高野秀行の無防備に見える突進と、危険すぎて外国人がほとんど近づけないソマリアという辺境の妙が絶妙な一冊だ。高野秀行とソマリランド、ちょっと凄すぎる。(仲野のレビューはこちら)
本書を読んだ方には、マーカス・ラトレル『アフガン、たった一人の生還 』もオススメ。SEALという、世界最強の軍隊に所属する著者は、四人チームでアフガニスタンでの作戦に従事していた際、一人の羊飼いを見逃したためにタリバン兵から猛攻撃を受ける。数百人対四人という絶望的な状況下から、奇跡的に生き延びた著者が語る、勇気と信頼の物語。
4位
日常的ではないモチーフを使って、これほど魅力的な物語を紡げるものなのかと驚いた一冊。かつてスペインのガレオン船を操舵していたという祖先を持つ水中考古学者の正人は、まさに祖先が乗っていたと思われるガレオン船を自ら発見する。しかし、時を同じくして、世界的なトレジャーハンティング会社も同じガレオン船を標的にし、金のない学者VS資金の潤沢な大企業という、各国を巻き込んだ壮絶な争奪戦が始まる。予想不可能な事態が次々と巻き起こり、ハラハラドキドキさせられること請け合いだ。
本書を読んだ方には、NHKスペシャル深海プロジェクト取材班『ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!』もオススメ。世界で初めて生きたダイオウイカの撮影に成功したと、世界中でセンセーションを巻き起こしたプロジェクトチームの、スタートから感動のゴールまでを追った作品。成功の見込みはほとんど絶望的だったにも関わらず、粘り強く諦めないで進み続けた結果の快挙だ。
5位
高校時代のラグビー部の先輩が、ヤクザの組事務所にマシンガンを持って突っ込んで亡くなった。そんな冗談みたいな死に方をした先輩の葬儀で、フリーライターの沢木は久々にラグビー部の面々と再開する。そこ沢木は、牧瀬が引きこもりのような状態になっていることを知る。次第に彼は、高校時代のラグビー部を震源地としたトラブルに少しずつ巻き込まれていく。
青春小説と呼びたくなる爽やかな雰囲気と、大人の世界に絡み取られてしまった汚さみたいなものを巧みに融合させ、絶妙な構成力と、複雑な人間関係を中核に据えた繊細な物語が見事な作品だ。
6位
本書は、世の中のすべての女性を救う本だ。手に取りにくいタイトルなのはわかっているけど、現物をどこかで見つけて、P13まで読んでみてください。そこまで読んでピンと来なければ、この本はあなたには必要ないでしょう。ピンと来た方は、迷わずお買い上げください。
あなたがうまく行かないのは、決して「あなただけ」が悪いんじゃない。恋とかセックスに関係なく、とにかく幸せになりたいという女性は、是非読んでみてください。
7位
社会に出てしまった大人が読んでも、決して遅くはない。ただ本書は、これから社会に出ようとする若者に是非とも読んでほしい一冊だ。特に前半部では、「働くこと」「社会に出ること」について、学校の先生がなかなか教えてくれないけど、知っておいたら絶対に有意義な「考え方」や「心持ち」を提示してくれる。
内容は、哲学や日記や社会批評など多岐に渡る。タイトルからはちょっと想像しがたい程の豊潤さを湛えた作品だ。
本書を読んだ人には、『半年で職場の星になる! 働くためのコミュニケーション力 (ちくま文庫)』もオススメ。僕は結局、一度も就活をしないままウダウダと適当にここまで生きてきたが、本書を大学時代に読んでいたら、もしかしたら就活したかもしれないと本当に思った。「働く」ということに対して抱いている「漠然とした畏れ」を、ゆるゆると解きほぐしてくれる作品だ。
8位
歴史が苦手な僕がのめりこんだ一冊。著者はかつて、こんな問いを頭に浮かべたという。
「コロンブスが到着したころの新世界はどんなところだったのだろう?」
本書は、最新の考古学や人類学の知見を総動員して、当時の南北アメリカ大陸の様子を鮮やかに描き出す。「槍を持って獣を追いかけていたのだろう」という、皆が漠然と持っていそうなイメージを吹き飛ばしてくれる一冊だ。
9位
理科系の書籍の翻訳者として、絶大な信頼を誇る青木薫の初の著作。本書では、一般の人にはちょっと聞き覚えがないだろう「人間原理」というテーマが扱われている。「人間原理」は、ちょっと聞いただけでは、とても科学者が主張しているとは思えないほど怪しげなものだ。青木薫氏自身も当初は、そんな印象を持っていたようだ。本書は、古代から現代にかけて「宇宙」というものがどのように捉えられてきたのかという変遷のその先に、人類がたどり着いた「人間原理」という考え方を配し、宇宙像の移り変わりを描き出すダイナミックな作品だ。
10位
母親がダイナマイト心中をしたという過去を持つ著者が、「笑える自殺の本にしよう」と書き綴った作品。とても気が軽くなる一冊だ。作中に出てくる人たちが、すごくカッコ悪くて、ダメダメで、それでもどうにか生きている。「死にたいと思うことは悪いことじゃないけど、でも死なないで済む方がよくない?」というフランクなスタンスで終始進んでいくので、「自殺」という重いテーマを扱っているんだということをうっかり忘れてしまいそうになる作品だ。
長江 貴士
1983年、今や世界遺産となった富士山の割と近くで生まれる。毎日どデカい富士山を見ながら学校に通っていたので、富士山を見ても何の感慨も湧かない。「富士宮やきそば」で有名な富士宮も近いのだけど、上京する前は「富士宮やきそば」の存在を知らなかった。一度行っただけだけど、福島県二本松市東和地区がとても素晴らしいところで、また行きたい。他に行きたいところは、島根県の海士町と、兵庫県の家島。中原ブックランドTSUTAYA小杉店で文庫と新書を担当。
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