日本の未来・世界の平和はロボットが拓く! でも、究極のロボは人造人間かと思いきや、ちょっと違うみたいです。
日本はロボット大国である。実に世界の7割のロボットを生産し、その7割を自動車など生産組立現場で活用しているという。著者の広瀬氏はロボット開発の世界的権威であり、本書でも人道的地雷探知除去ロボットやヘビ型ロボットなど、独創的なロボットの開発秘話が語られている。
しかし本書の見どころは、後半、著者の語るロボットの未来の「形」と「心」についてのくだりである。「未来のロボット」について、一般的に思い描かれるのはヒューマノイドであり、SFの世界では人間とロボットとの間で覇権を巡る戦争が幾度となく勃発しているが、著者によればこれはナンセンスだという。
ロボットの形状については、むしろ人型にこだわることが健全なロボット発展の阻害要因ともなる。飛行機や自動車の歴史を振り返っても、開発初期こそ鳥や馬車の形状や筋肉運動からヒントを得ようとしたものの、当初のこだわりを捨てエンジンによる無限回転(*)でプロペラや車輪を回す手段を採用したことで、航空機全盛・モータリゼーション時代が到来した。進化の過程では「守破離」が肝要だ。
また、結局のところロボット開発の要諦は「何をロボットにやらせるか」にある。人造人間に子守りや老人介護をすべて任せ、人型ロボットにスポーツや音楽演奏のインストラクションを受ける社会が豊かだと言えるだろうか。むしろ、会社の仕事や公共サービスの生産性をロボットで向上し、生じた余暇や富を、親子の触れ合いの時間や介護ヘルパー・インストラクターへの報酬として再配分するほうが賢いだろう。
他方、ロボットの「心」はひとえに人間が行うプログラミング次第である。簡単に故障してもらっても困るので最低限の自己防御ロジックは組込むものの、生死や種の自己保存の概念がないロボットを、わざわざ生存に執着するよう作る必要性は認められない。
むしろ、生存に非執着でいられるという利点を生かし、無私で自己犠牲を厭わない人命救助や危険作業を人間から肩代りしてもらったほうが賢く、また倫理にもかなっている。ロボットの行動規範を検討するには、意思決定ロジックの評価基準・最適化手法の研究や、倫理工学といった新たな学問分野への取り組みが今後必要になってくる。
著者のレトリックは「逆説的」でもあり、実に鮮やかだ。こだわりを捨て中途半端にウェットな議論は一旦棚に上げ、手段や機能といった「論理的・機械的」な側面をドライに突き詰めていくことで、逆に倫理的で希望の持てる明るい未来が開けてくるのだ。
最後に、著者の思い描く日本「サンダーバード部隊」構想について。日本の誇るロボット技術を活かして人命救助や復興支援活動をするという部隊が、世界のあらゆる災害に駆けつけて活躍する日がやがて来るかもしれない。ただ、一貫性を欠くロボット政策により東海村臨界事故以降の研究開発は実らず、今回の原発事故では海外頼みというのが現実だ。エネルギーとともにロボットも重要な国家戦略として、ぶれない軸がいま求められている。
(*)ちなみに運動効率の良い車輪・無限回転は、体の全部分に血管で栄養供給を行わねばならない生物にとって実現不可能な機構(→回転で血管がねじ切れてしまう)ではあるが、唯一バクテリアの一種・スピロヘータは、(栄養供給の必要がない)鞭毛をタービンのように回転させて推進力を出している。