HONZをご覧の皆様、はじめまして。京都の大垣書店烏丸三条店に勤務しております吉川敦子と申します。当店は京都のおへそ(ど真ん中)「六角堂」と、クールジャパンの殿堂「国際マンガミュージアム」に挟まれた立地ゆえに、老若男女のみならず諸外国のお客様にも多数お越しいただいております。
語学力の無さに悩まされながらも、お客様に素敵な本と出会っていただくべく、気合と情熱を合言葉に、日々奮闘しております。素敵な本読みの方がご覧になっているHONZのサイトでも「売りたい!!」と思った1冊1冊を、皆様に紹介できる場をいただけて本当にうれしいです。よろしくお願いいたします。
今回は私の担当しているコミックのジャンルで素晴らしい作品が続々発売されましたので、ご紹介させていただきます。
「本当にすべての人に読んでほしい漫画です」「立ち読みでもいいです」週刊少年マガジン編集部の方が、雑誌掲載時に思わずツイートした作品がこの『聲の形』です。単行本化するか分からないからと、沢山の方がこの作品の掲載された週刊少年マガジンをお買い求めになり、掲載号のみ通常より6万部も部数が伸びたという伝説の作品です。
耳の聞こえない転校生の少女、西宮硝子とやんちゃな少年石田将也。出会ったことでお互いの人生を大きく変えてしまった2人。
「お前なんかに出会わなきゃよかった。もう一度、会いたい。」
将也が大きな後悔と懺悔の気持ちをもって、かつて自分がいじめた硝子に会いに行くところから物語は始まります。
読んでいて面白い作品では決してありません。執拗ないじめの描写が続きますし、人の残酷さ、無責任さなどが容赦なく描かれています。何度も何度も考えさせられます。自分がもしこの教室の一員だったらどうするだろう。いじめに加担せず、止める事ができるだろうか。人と自分が違うことを受け入れる事ができるだろうか。と。暗くなりがちなテーマの作品ではありますが、どんなに辛いことがあっても笑顔と感謝を忘れず、諦めず、人をゆるす硝子の姿は、この作品の光です。彼女の気高さがこの作品を優しく包み込んでいます。
店頭では試し読み小冊子を置いて大展開していますが、その前で肩をならべて作品に読むふける学生さんの姿が多く見られます。悲しみを知る人は優しい人になれる。悲しい経験は必ずや糧になり、同じ思いをする人に寄り添うことができるようになる。この作品を通して、描かれている事の残酷さを追体験する事は、きっと人生の中でプラスに働くと思います。
ソルシエとは魔法使いの事。『ひまわり』が有名なあの天才画家ゴッホと、その弟、敏腕画商テオの絆を描いた作品。『このマンガがすごい!2013』でオンナ編2位だった『式の前日』で絶賛された、何気ない日常を美しく切り取る手法とラストのどんでん返しはこの作品でも冴えわたっており、完結篇である2巻では、驚きと感動で物語を締めくくってくれました。
描かれているのは兄弟の切ないまでの絆。弟は兄の才能に焦がれ、世界に広めるためなら手段を選ばず、兄は明るく利発な弟の存在をただ愛していて、二人は互いを思いながらも、少しずつすれ違っていきます。
絵画は書物に似ていると思います。衣食住の様になければ生きていけないという事はないけれど、人に喜びや感動や生きるための活力を与えるかけがえのないものです。作中のテオの言葉に印象的なものがあります。
「知っているか、兄さん。画商が心を揺さぶられて仕方がない作品に出逢った時の感動をなんと呼ぶか。」
「恋だよ。生涯忘れることができないたった一度の出会い。それはまるで運命だ。人間相手の恋なんて比べものにならない。その出逢いが絶望をひと時忘れさせてくれることを俺は知ってる。」
本当は画家になり、世界に影響を与える人間になりたかったテオは、兄の絵の才能を認めながらも嫉妬し、兄が自らの才能に無自覚なことに苛立ちます。才能を与えられた人には役目があると。兄の絵を後世に伝えるために、テオは驚くべき手段をとります。テオの言葉を借りると、私もこの作品に恋してしまったようです。恋多き女なのか、様々な作品に心を打たれますが(笑)
孤独の殻に閉じこもって生きてきたテオの心が、兄の言葉によって満たされ、晴れやかな笑顔が浮かぶシーンは涙なくして読めません。少女マンガのレーベルから出ていますが、すべての人に読んでいただきたいヒューマンドラマです。
最後に、当店で某国民的海賊漫画より売れちゃってる問題作をご紹介します…。
スーパークールな高校生、坂本のスタイリッシュすぎる日常を描いたコメディー。上級生からパシリを命じられれば、それをおもてなしの域にまで向上させたり、いじわるされて椅子を思いっきり後ろにひかれても、華麗に空気椅子で乗り切ったり、机そのものを隠されても窓際でクールに授業に参加しちゃったり。くじけない、気にしないというのではなく、逆境を逆手にとって人々を魅了する坂本の姿に、へんな勇気をもらえるような…。言葉では言い尽くせない謎の魅力に満ちた作品です。ぜひご一読ください。
吉川敦子
1982年生まれ。中高大、ならびに就職先もすべて京都。他府県へ出る機会を逃し今に至る。抹茶と和菓子をこよなく愛し、飲み会よりお茶会への出席率の方が高い。
書籍全般を毎日ウォッチしながらも、メイン担当はコミック。
隣の芝生は青いと申しますが、好奇心旺盛なので(飽きっぽいとも言う)そろそろほかのジャンルも担当してみたいなぁ、と思ったりする今日この頃。
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