子どもが産まれたあと妻の態度が激変した ー そんな経験ある世の男性(夫)は多いのではないか。とある民間研究機関の調査によると、妊娠した段階では7割が相手に愛情を抱いているが、子どもが2歳になる頃には、女性の夫への愛情はなんと半数以下の3割にまで低下するという(男性も低下するが、女性の下げ幅の方が圧倒的)。「え、そんなに俺たち愛されてなかったの?」「やっぱりそうだったのか」人によって反応はそれぞれだろうが、男性にとってはなんともショッキングなデータである。一方の女性の反応は、「夫を愛している妻が3割もいるの!?」と傷口に塩を塗る反応。。。
厚生労働省のデータを基に推計すると、産後2年以内で夫婦仲が冷めて離婚するケースは年間で3万9000件もあるようだ。産後2年以内の離婚は、子どもがいる家庭が離婚する時期としては最も多く、全体の約3割を占める。長年連れ添ったにも関わらず、出産後わずか1年半で離婚に至ってしまうという夫婦が最近増えているという。別の調査では、離婚までには至らなくとも、この時期のわだかまりが、その後の夫婦関係に長く影響するというデータもある。本書では、休日には家族そろって出かけるなど傍から見れば絵に描いたような「幸せな家族」を築いていたとしても、産後の夫婦間のヒビが尾を引き、「夫にもはや愛情のかけらもありません」という妻のコメントが紹介されている(夫に期待するのは愛情ではなく経済力とのこと)。
この産後2年以内に起こる夫婦間の危機とは何なのか、なぜ起こるのか、どうしたら防げるのか、そんな難問に迫るのが本書である。著者は現役のNHK報道局記者と制作局ディレクター。2012年、この二人が出産後に夫婦の愛情が急速に冷え込む現象を「産後クライシス」と名付け、NHK朝の情報番組「あさイチ」にて取り上げたところ、視聴者の反応はその年1位2位を争う大反響だったという。世の多くの男性陣は主婦をターゲットとした「あさイチ」を観れてないだろうから、ぜひ今回本書を手にとって「産後クライシス」を理解することをオススメする。
「産後クライシス」が起こる原因。お茶の水女子大学やベネッセの研究によると、出産後デリケートな時期に放つ夫の無神経な一言や家事育児への非協力が、この「産後クライシス」に強く関係しているという。出産は女性にとって人生最大の危機と言われ、身体的にも精神的にもそして社会的にも最高レベルの変化を経験する時期。その時期に無神経な夫が家事・育児を手伝わないと、夫は「最愛の人」から「育児・家事の邪魔をするやっかいな同居人」にまで格下げされてしまうという。
例えば、翌日朝一で仕事があるため、子どもが夜泣きしていても布団にもぐりこみ気付かなかったふりをする。深酔いして帰宅後、子どもの夜泣きに対して嫌そうな顔をする。「今日は早く帰ってきて」と妻に言われた際に「そんなの無理」と返答する。こんな経験はないだろうか。慣れない育児で心身ともに限界に近づいている妻にとって、これらは痛恨の一撃になりかねない。しかも、男性は「自分が妻の愛情を失っていること」そして「その原因を自分の行動が作っていること」に一切気づいていないことが問題をさらに深刻にさせている。NHKの番組が行った調査でも、妻は産後クライシスがあったと認識しているにも関わらず、夫は産後クライシスはなかったと勘違いしているケースがほとんどだったという。
多くの男性が本書を読み、「産後クライシス」を避けてもらいたい、これが産後クライシスを経験している著者二人の思いである。本書は産後クライシスを回避する方法を具体的に紹介している。この一冊で何十年続く夫婦間に禍根を残さずすむと思うと819円はとても安い買い物だ。本書を買って読んでるフリをするだけでも、夫婦仲のことを真剣に考えていると思われ、妻のポイントはあがるかもしれない。もちろん男性向けだけに書かれた本ではなく、産後クライシスを回避するために「妻ができること」も紹介されており、女性もためになる内容だ。
本書の帯には「手伝おうか?」はNGワードだと書いてある。「え、何でNGなの?」と思ったあなた、その悪気のない反応が妻を怒らせている原因である。なぜこれがNGワードなのか分からなかった方には特に本書を読むことをオススメしたい(ちなみに我が家では、私はNGな理由が全然分からなかったが、妻はすぐに答えが分かった)。
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夫婦仲を維持するために必要なのは「男性はけんか中、黙って我慢すること」。夫婦仲を科学的に分析しているのが『夫婦ゲンカで男はなぜ黙るのか』。山本の書評はこちら。