HONZ活動記-JAMSTEC見学訪問②

2013年9月16日 印刷向け表示
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吉梅さんは、渋い作業服姿で登場。報道室・長谷部さんが、吉梅は制服でご案内する、と一言。テンションが上がる。別に、制服萌えの趣味はない。けれども臨場感が違う。ほんまに来ちゃってるんだな、JAMSTECに!

まずは海洋工学実験場内の高圧実験棟へ。タンクの中で圧力をかけ、物質がどのように変化するのかを実験する。海の中へ潜るということは、つまり水圧を受けるということだ。例えば有人潜水調査船「しんかい6500」は最大潜航深度6500mだが、内部気圧を地上と同じに保つためには、10mごとに1気圧ずつ増える周囲の圧力に耐えなくてはならない。深度6500mであれば、約650気圧の水圧がかかる。耐圧殻全体の表面積に9万トンの重量がかかることになる。潜水調査船の開発に高圧実験は欠かせない。伺った時は申し訳ないことに実験中。(お邪魔してすみません。)モニターを前に真剣な表情。装置が水圧に耐えうるものなのかどうか、圧力環境下で物質がどのような影響を受けるのかなど、実験設備の目的や使われ方を聞き、展示されている実験結果に息をのむ。こ、こんなに縮んじゃうんですか!しかし、その中でも縮まない日清「どん兵衛」のカップに、麻木久仁子から質問。吉梅さんは淡々と、表面がビニールコーティングされていると縮みにくいのだと回答。一同、へえー。変形しても、縮みにくい。発泡スチロールというのはその名の通りウレタンを発泡させて作られる。加圧するとその空気が抜けてしまうのである。だがそこにビニールコーティングを加えると空気が抜けにくくなる。説明されてしまえば単純なようにも思えるが、へえー、である。

次に向かったのは波動水槽。実際の海で出会うような波を出すことができる装置で、水の抵抗を調べるためのもの。海洋構造物に与える波の影響や、水中ロボットの作業実験に使われる。やっぱりこちらでも実験中。(お邪魔してすみません。)写真はNG。その隣には音響水槽。音が反射しないように作られており、実際に超音波を発射して水中での音響実験を行う。無人探査機など、水中での探査や通信には音波が使われる。通信量や通信速度を考えると周波数の高い電波のほうが便利なのだが、水中では周波数が高くなればなるほど届かない。誘電率や導電率の関係で、特に純水に比べても海水中は電波が伝わりにくい。そのため音波が使われるのだ。水槽中の水を抜くことができないという話を聞いて、やはり麻木久仁子から鰻屋のタレみたい、と一言。素晴らしい比喩センス。確かにそんな感じだ、と内心大きく頷く。

大きなシャッターをくぐり、次の棟へ。大きなシャッターというだけでワクワク。何だろう、こういうものにときめいてしまうのは・・・。JAMSTECでは、科学技術、学術研究の進歩向上のため、これら施設設備の外部利用を行っている。ぜひお問い合わせいただきたい。

次は潜水調査船の整備場へ向かう。その途中に、シートピア計画で使用された海中居住実験施設ハビタートが展示されていた。シートピア計画は、1973年から始まったJAMSTEC初期の実験である。海中に居住することを最終目標とし、人間が何mまで潜水できるのか、また潜水による人体への影響を研究。ハビタートの底部にはハッチがあり、人が出入りできるようになっている。水深100mで海中作業などしたらしい。計画は1990年ニューシートピア計画フェーズ2まで続けられた。海中居住の目標は達成されなかったものの、その過程で得られた実験結果や開発成果は実用化され、現在も利用されている。研究は、目標が達成されるかどうかだけでなく、その過程で何が得られるかも大事なのだ。そんなことを改めて思いながら、ハビタートを眺める。

潜水調査船整備場と掲げられた引き戸をくぐる。土屋敦が、もう本当にときめくよね~と非常に嬉しそう。整備場、その名前の響きだけでときめく。気持ち、わかります。たぶん同じ気持ちだっただろう高村和久。彼の撮った写真の中にも、しっかり入り口が一枚収められていた。JAMSTECには、有人潜水調査船「しんかい6500」を始めとして8機の探査機がある。「しんかい6500」以外は無人探査機で、整備中のいくつかが場内に。吉梅さんは普段こちらの整備場で次の探査に備えていらっしゃるのだろう。入ると分解整備中の「じんべい」と「ゆめいるか」。このように分解して部品のチェックをするのか。メンバーからかっこいい!の声が上がる。見慣れない内部構造にみんな興味津々。情報流出を防ぐため、写真はNG。「ゆめいるか」は前と後ろに舵があり、今までのAUV(自律型無人潜水機)と違って海底との距離を一定に保ったまま起伏があれば垂直に上昇するという。垂直上昇!と一人興奮してしまったのをこらえ、吉梅さんの説明に耳を澄ます。音波を使って海底の状態を探査するため、機体が斜めになると誤差が出る。海底との距離を一定に保つことで、その誤差を少なくできるのだという。「じんべい」「ゆめいるか」ともに深海3000mほどまで潜航調査が可能。この探査機が、目の前にあるこの機体が、深海に潜航して人間の肌に触れない未知の海底を調査してきたのだ。すごい!「じんべい」はこの後航海に出る予定があり、吉梅さんはその整備を抜けてのツアコン中。ありがとうございます。浮力材!ソナー!メンバーの目がキラキラしている。探査機は浮力材を取り付けており、潜航するときはその上に重りを載せて沈んでいく。上昇するときはその重りを切り離すのだ。浮力材の開発一つとっても試行錯誤の歴史があり、伺うたびに科学技術ってのは地道な努力の積み重ねで進歩してきたのだな、と感嘆の息。重りを使っての潜航システムは、万が一電源が失われたときでも探査機の浮上を行うことができるように、との工夫。重りの切り離しは母船から音波で行う。なるほど。光ファイバーケーブルで母船と探査機を結び、膨大な量のデータのやり取りを行うこともあるが、例えばAUVの航行に関しては自律して行われ、母船とのやり取りはやはり音波が使われる原理のようだ。代表・成毛眞は音波を使った音響通信に興味津々。熱心な質問が飛ぶ。質問は探査機に取り付けられたサイドスキャンソナーへ。低い周波数を使えば母船からでも海底の様子は探査できる。しかし精密にはできない。そこで海中に高い周波数で海底を探索する探査機を潜航させ、海底の微細な地形、精密な海底地質を探るのである。つまり、海洋のリモートセンシング機器。「うらしま」が描き出した海底泥火山の図面に見入る一同。話はロープや電線にまで及び、興味は尽きない。

一同は深海巡航探査機「うらしま」の整備場へ移動。吉梅さんは「しんかい6500」の潜航長を務めたベテランパイロット。潜航回数は延べ300回を超える。パイロットは潜航技術だけでなく、機器の扱いにも長けていなくてはならない。整備場で話す言葉には淀みがない。今まで海底で、「あ!まじかよ!」と思ったことはあるか、との問いに、「ありすぎて本に書けなかった。」と笑う。命の危険を感じることもあったという。「でも、パイロットが慌てるわけにはいきませんから。研究者の皆さんが怖がっちゃう。素知らぬ顔をして、大丈夫、大丈夫って言うんです。」「「しんかい2000」(「しんかい6500」に先行する有人潜水調査船。2002年に活動休止。)がカニかごに引っかかっちゃったこととかありますよ。私が入社する前の話なんですけどね。」パイロットならではの裏話に盛り上がる。緊急時の対策についての話に発展。周りの状況を監視カメラで確認したり、緊急停止のための装置も備えられているとのこと。メンバーの突拍子もない質問にも落ち着いて回答するのはさすがベテランパイロット。どんなときにも動じない精神が培われているのだ。

吉梅さんにお礼を申し上げ、整備場見学も終了。広報の吉澤さんに、この施設全体でいったいいくらくらいの予算が投入されているんですか、などと下世話な質問をしつつ、会議室へ戻った。(つづく)

ぼくは「しんかい6500」のパイロット (私の大学テキスト版)

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<関連リンク>

JAMSTEC-独立行政法人海洋研究開発機構

国立科学博物館 特別展「深海-挑戦の歩みと驚異の生きものたち-」

「JAMSTEC(海洋研究開発機構)を楽しむ8冊+α」by土屋敦

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