♪じゃあむすてっく、じゃむすてっく、じゃむじゃむじゃむじゃむじゃーむすてーーっくっ♪
自作のJAMSTECのテーマが頭のなかを流れ続けている。暑さでおかしくなったのではない(たぶん)。もうすぐ、HONZでは「大人の社会科見学」としてJAMSTECの横須賀本部に行くのである。これが浮かれずにいられようか。
JAMSTECって何? と思った方。そういう方のためにこのブックガイドを用意した。まずはなんといってもこちらの本だ。
JAMSTECに入り、有人潜水調査船しんかい6500のパイロットを目指す女性を描いた小説……って、いきなりフィクションを紹介してしまってすみません。しかし、著者は、深海探査に関して、JAMSTECの全面協力を得て実に詳しく取材しており、おそらく研究者やそれを支える人たちの気持ちまで、リアルに描かれていると思われる。潜水調査船制作の技術継承の危機の話(しんかい6500も、もう作られて20年以上が経つのだ)なども現実に即していて、UMAものエンターテインメントとして楽しく読みつつ、JAMSTECの深海に関わる領域の全体的な雰囲気がつかめるはずだ。
しんかい6500の前潜航長だった著者が、深海の光景や、船内での会話など、潜航の様子を見事に活写したノンフィクション。まず、早川義夫の『ぼくは本屋のおやじさん』的なタイトルがぐっとくる。三菱重工が作り上げた「世界一の潜水艦」をめぐる熱い職人魂、いかにも海の現場らしい人間関係などが、吉梅さんの人柄が想像される実直な文体で語られる。なにより瀬戸内は広島県の因島に生まれ、父も船乗りで、海や船とともに育った著者の「船乗り」っぷりがかっこ良すぎ。
著者が整備士かつパイロットであるゆえ「しんかい6500」の改造史とその未来、マニピュレータの詳しい解説などもいい。「もし潜航中に電池がなくなったら」とか「廃棄された漁網などで海底に拘束されたら」など、考えるだけぞっとするような事態の対応策まで載っている。
巨大魚の攻撃や、チムニーの頂上で逆立ちして産卵するユノハナガニなどの奇妙な生き物たちなどの描写も面白く、ああ、深海の様子を実際に見てみたいと身悶えしてしまう本なのだが、その気持ちを見透かされたように、こちらの動画と本の内容が連動しているのはさすがだ。
深海を見る、といえば、今年6月にしんかい6500の潜航から深海探査が、ニコニコ生放送で生中継された。スタジオには吉梅さんが登場したが、実に渋い男っぷり。しかもめちゃくちゃいい声をしている。間違いなくモテる男である。この中継では、深度とともに変化する、青から漆黒の闇への美しい海のグラデーションやチムニー(海底の熱水噴出孔)の様子、採集作業などが映しだされ、ほんとうに素晴らしい中継だった。加えて笑いの絶えない艦内や、母船よこすかの様子からは、JAMSTECのいい感じの雰囲気が伝わってくる。ニコニコ無料会員になれば今も見ることができる。
この中継でしんかい6500で潜った3人のうちのひとりが高井研さん。黒い熱水を噴出するチムニーを前に「これがブラックスモーカーや」と絶叫するなど、いつも元気、というかウルサイ。
その高井さんの本を仲野徹がレビューしている。私は、本書のマンガ、芸能ネタにえらい反応してしまった。同世代なのです。
さて、しんかい6500には「よこすか」という母船がある。著者の石田さんはその船長を務めたほか、去年から新江ノ島水族館に常設展示されているしんかい2000の支援母船でドルフィン3Kを搭載する「なつしま」。無人探査機「かいこう7000II」の支援母船「かいれい」などの船長でもあった方。16歳で初めて船に乗り、下働きから「日本一のキャプテン」にまでなったまさに海の男だ。
「かいれい」でのインド洋で初の熱水噴出孔を発見や、同じく「かいれい」で、1999年に打ち上げに失敗したH2ロケット8号機のエンジン探索の様子なども描写されており、こちらは母船の様子がよくわかる。特に、畑下さんという老ヨット乗りとの交流のエピソードが素晴らしく、また同時にそこにJAMSTECの自由な雰囲気が伝わってくる。おすすめの一冊である。
さて、「よこすか」や「なつしま」に触れたら、世界で唯一、マントルまで掘削できてしまう「ちきゅう」に触れないわけにはいかない。ちきゅうは人類史上初めてマントルや巨大地震発生域への大深度掘削を可能にする世界初のライザー式科学掘削船!(←JAMSTECのウェブページのコピペ)。タイトルは明示していないが、「ちきゅう」をめぐるプロジェクトについて記した本である。加えて大規模なプロジェクトの決まる過程やその計画ってどんな感じ? というのもよくわかる一冊。
「海にこそ、日本の将来がある」とは、石田貞夫キャプテンの言葉。国は海洋にも宇宙研究並みに予算を突っ込むべし!
さてさて、では深海でどんな生物が見られるのか、それを網羅したのがこちら。
わずか6800円(税抜き)。安い!(と断言してしまおう) ブームの深海図鑑や深海生物の姿を捉えた本は多く出ているが、いずれもが、特に珍奇だったり発光していたり、非常に美しかったりするものを多く取り上げているので、深海はついそんな生き物でいっぱいのような気がするが、実は違う。そのことがわかる地に足の着いた図鑑である(まま研究者向けなのでまあ当たり前なのですが)。
昨年にこの本の第2版が出たとき、HONZで紹介しようかとも思ったが、HONZ朝会でサツマハオリムシの本を紹介したとき、誰も興味を持ってくれず、場があまりに白けてしまったことを思い出し、あきらめた、という苦い思い出の一冊でもある。
白眉はやはり、熱水噴出域に生息する化学合成生物群集だ。派手なくらげや魚より、ハオリムシやシロウリガイ、エラゴカイなどにぐっと来る。粘菌やキノコ好きならわかってくれるだろうか。
そして鯨の遺骸を飛び石のように利用して熱水噴出域の生物が移動、拡散していったというステッピング・ストーン仮説にもワクワク。鹿児島県は野間岬沖のマッコウクジラの遺骸直下で発見された新種のナメクジウオ、ゲイコツナメクジウオの写真にもかなり萌える(ちなみに東大の窪川かおる教授が編み、JAMSTECの渡部裕美さんも登場する、女性海洋研究者たちによる本『海のプロフェッショナル』には、東大でナメクジウオを研究する博士課程の「理系女子」の研究生活が紹介されていて和んだりもする)。
2008年に出た本書の第一版の表紙は、沖縄トラフ鳩間海丘で熱水噴出孔を調査するしんかい6500の写真(別の本では同じ写真について水深1480mとあったが、この本では1525mとちょっと深くなっている。なぜだろう?)だったが、第二版は深海ブームを意識したのかヒゲナガダコである。ちなみにこのヒゲナガダコの写真は無人探査機ハイパードルフィンで撮影されたもの。JAMSTECきっての深海生物写真家(本当は研究者なのですが)として知られる藤原義弘さんの子供向けの本の表紙にも使われている。
その藤原義弘さんの写真術と研究はこちらの記事で。ステッピング・ストーン仮説についての説明もある。藤原さんの写真は10月下旬発売の深海図鑑カレンダー2014を購入して、来年1年書けてじっくりと楽しむのが、一番いい選択と思われる。
さて、JAMSTECと言えば、成毛眞大絶賛のこの一冊を忘れるわけにはいかない。
成毛眞のレビューはこちら。
そして大河内さんの新刊。
こちらも成毛眞のレビューが!
さて、他にも『梅雨前線の正体』(著者と文章が妙に面白い)とか、紹介したい本はあるのだが、若干専門的になるのと、だいぶ疲れてきたのでここまでにする。
これらの本が紹介するのは、JAMSTECが関わる研究のごく一部だ。他にも地震、資源などの研究に海洋工学などの開発部門、地球シミュレータセンター、アプリケーションラボまである。しかも皆バラバラに研究しているわけではなく、有機的に繋がっているのだろう。そのあたりのことを知りたくて、ちょうどJAMSTECの研究者たちが執筆した、「分野を超えて自然現象の共通原理を探る」本である『階層構造の科学』を読み始めたところだ。
JAMSTEC理事長の平朝彦氏は、『日本列島の誕生』で日本列島は、世界中に散らばった地質が集まって実に複雑に、ダイナミックに動いていることを教えてくれたが、JAMSTECという組織こそが、実に多様な研究者が集まり、ダイナミズムに溢れているように思う。
JAMSTECが行っている研究をひとことで語ることなどとてもできないであろうが、敢えて言うなら、「地球という惑星の、活き活きと躍動する「生命力」を研究する人たち」ではないだろうか。その躍動感にぼくらは心惹かれるのだ。
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さて、おまけを少し。
まずはすでに一部を紹介しましたが、日経ビジネスオンライン×Webナショジオの「海の研究探検隊」は必読。
そしてHONZファンにはおなじみ岩波科学ライブラリー『フジツボ―魅惑の足まねき』の倉谷うらら先生がJAMSTECの研究者を訪ねるというちょっとフシギな動画企画も。不思議オーラと存在感で取材側のうららさんが、研究者の何倍も目立っています。
ということで、少しだけマニアックなJAMSTEC案内は本当にこれでおしまいです。もし抜けている面白本がありましたら、ご教授いただければ幸いです。
JAMSTECは、動画も本も、ウェブサイトも充実しており、いかに研究成果を普通の人たちに伝えようと努力しているのか、とてもよくわかると思います。あとはちょっとだけマニアな私としては、3Dプリンタ用の浮遊性有孔虫の殻のCADデータなんかをウェブ上で配布してくれたもう言うことないです(何に使うんだ?)。
尚、HONZメンバーは今日紹介した本を全部読んでから、JAMSTEC見学にのぞむように。