まずはカナダ国民に感謝しなければならない。本書は大型本フルカラー390ページ(索引含め)のいわゆる豪華本なのだが定価は4000円。同種の大型本に比べれば圧倒的に安いのだ。それもそのはず、本書の制作にあたってはカナダ政府から助成金が出ているというのだ。何のためにカナダ政府が助成したのさっぱりわからないし、どの程度の金額だったかもわからないが、ありがたいことである。
これまでロケットの本は宇宙飛行士の本などは大量に出版されているが、宇宙探査機の本は「はやぶさ」関連を除いてほとんど見たことがない。考えてみるとロケットは探査機を宇宙にぶっ飛ばすために使われる輸送機であり、本来は探査機のほうが主役なのかもしれない。
「しんかい6500」や「ダイオウイカ」で注目を浴びているJAMSTEC(海洋研究開発機構)がどちらかというと、技術開発よりも自前の科学研究に重点をおいているように見えるのに対し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は技術開発を外部に利用してもらう比重が高いように見えることと符合する。ロケットは探査機以外に弾頭も積むことができるため、コストや発射容易性などの技術開発に重点がおかれていたのかもしれない。(JAXAがミサイルを開発しているという意味ではなく、ナチスのV2ロケット以降の各国における一般論である)
本書は「月」「金星」「火星」「大惑星たち」「水星」「太陽」「彗星」「準惑星と小惑星」にわけて、それぞれの天体に向けて飛んでいった189機の探査機を650点以上の写真とCGで解説する。天体マニアはもちろんだが、メカマニアにとってもどうしても手元に置きたい1冊だ。
1966年にソ連が月の周回軌道に投入したルナ12号のカラー写真などは見ていてまったく飽きない。ニョロニョロと探査機の外周を這うケーブルやパイプ、モスグリーンに塗られた球形の何かのタンク、CCCPのロゴ。いやはやグッとくるのだが、普通の人にはわからんかもしれない。ルナ16号の通信機器のテスト中の白黒写真には、これまたアナログメーターがならんだ、スイッチ満載の計測機器が写り込んでいて、心が揺さぶられてしまう。おなじく1971年にソ連が火星に向けて打ち上げたマルス2号もなんとも美しい。ソ連のデザインはあきらかにスチームパンクの世界に属しているのだ。
それはともかく、本書には探査機が撮影した天体の写真が第2の主役であり、これまたとんでもなく美しい。もちろん探査機の主要装備図や軌道図などにも抜かりがない。これらの探査機がそれぞれのミッションで測定・観察してきた、天体の温度・組成・磁場・大気などのデータもじつに興味深い。人類がいつ何を知ったのかの記録でもある。
ベンチャー企業の経営者ならば、会社に一冊買っておいて損はないだろう。未知なるものを求めての片道飛行をした探査機たちの姿は挑戦者であり、先駆者でもある。技術者に勇気を与えるための本はグダグダとした自己啓発本より、本書のほうがふさわしいかもしれないのだ。
スチームパンクの代表的な一冊。このたぐい、大好きなんっすよ。
こちらはスチームパンクのアクセサリー