世界一大きな問題のシンプルな解き方――私が貧困解決の現場で学んだこと
- 作者: ポール ポラック、東方 雅美
- 出版社: 英治出版; 1版
- 発売日: 2011/6/14
1日の稼ぎが1ドル未満の人たちのうち8億人は、その稼ぎのほとんどを1エーカー(1辺約64メートルの正方形)の農場から得ている。その農場も4つか5つの小さな区画に分散している。その小さな農場から家族(約10人)を養わなければいけない。比較までに、農地面積が少ないといわれている日本の農家ですら、平均耕作面積は1.2ha、約3エーカーである。
本書のサブタイトルに含まれる「貧困」という単語を聞くと、ついついACのコマーシャルを思い出して、子どもたちのやせ細ったからだや微笑みかけてくる笑顔を思い出す、パブロフの犬のように。また、発展途上国と農業で連想されるのは教科書によく出てくるプランテーションについてだ。このあたりで、地球の裏側に対する想像力がストップしてしまう。
また地球規模では、国連が出している「貧困に対する答え」は「ミレニアム開発目標(MDGs)」を達成することである。MDGsは8つの達成すべき数値目標なのだが、すでに目標達成は厳しい状態で2004年のダボス会議では「アフリカの開発援助における莫大な投資では、目に見えた成果はほとんどなかった」と酷評されている。
原書のタイトルは『Out of Poverty』。貧困の現状について詳しく分析する本はよく出版されるが、貧困という大きすぎる問題にポジティブに立ち向かっている本は多くはない。本書はその数少ない一冊の一つである。著者のポール・ポラックは、15歳でいちご農園の一部を借りて経営。大学は医学部に進み精神科医となり、ホームレスの生活実態を観察する。その後、何度か起業を経験し、最終的に本書に関係する仕事に就く。
著者はまず現状の貧困撲滅の活動についての3つの誤解を大胆に描いている。
1.寄付によって人々を貧困から救いだせる
→豊かな国から貧しい国への寄付として、毎年1600億ドルを10年間にわたり求めている
2.国家の経済成長が貧困をなくす
→都市部の産業が成長し国の一人当たりGDPが増えても、貧しい人々の大半を素通りする
3.大企業が貧困をなくす
→BoPビジネスを提唱した『ネクスト・マーケット』の事例を分析、多国籍企業が取り組むには、新しい方法に取り組む必要がある
著者の貧困撲滅へのアプローチは現場に入り込み、現地の人々と対話しながら、どのようにして1エーカーの農場しかない人々が収益を増加させることができるのか?を徹底している。バングラディシュやネパール農家が起業家精神を発揮し、いかにして収入を増やしていくのか、思考錯誤を繰り返し、生み出してきた数々の農業器具、その開発プロセスは特に注目である。器具だけでなく、貧困脱却のストーリーは生々しい一家の収入や野菜の種類まで事細かに紹介されている。
書名はビジネス書っぽさを感じるが、中身はとても汗臭さを感じる。アジアの田舎に旅行に行く前に読むと、ものの見方が大きく変わるはずだ。夏休みにアジアを目指す人にはおすすめかもしれない。
HONZ関連としては、代表成毛氏の盟友ビル・ゲイツが立ち上げた「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」もポール・ポラック氏の組織を積極的に支援している。財団の支援を受けてIDEOと制作した「Human Centered Design Toolkit」はとても利用価値が高いツールキットである。