このたぐいの本はあまり読まない。これまでにも何10冊も同じような本を手にとってきたし、もうそれほどの上昇志向も必要なく、つまり読まなくても良い年齢になっているからなのだが、本書は基調色が素晴らしいのでつい買ってしまった。じつはこの1分間シリーズはドラッカーからはじまり、スティーブ・ジョブズ、松下幸之助、バフェット、コトラーとつづいてきた。各巻ともデザインはまったく同じなのだが、使っている色が違うのだ。これまで使われていた色はミドリや茶色だった。しかし今回の本田宗一郎には赤を使ったのだ。
松下幸之助やソニーの井深・盛田コンビなど、一般によく知られているエライ経営者の中では本田宗一郎がダントツに好きだ。好きな理由は怒ったときには社員にスパナを投げつけたという逸話があるからだ。ボクも部下の足を蹴りあげたことはあるがスパナは投げたことがなかった。羨ましいことだ。本田宗一郎は経営者によくありがちな後付けで思いつきの経営論を振りかざすようなこともない。成功者は嫉妬ややっかみからの攻撃を避けるために、偽善的な行為に走ることが多いのだが、それも見当たらない。そう、本田宗一郎はもっとも赤が似合う経営者なのだ。
本書の著者は岩倉信弥氏。1964年に多摩美術大学を卒業し本田技研工業に入社。長くホンダ車のデザインや商品開発に関わり、商品担当の常務取締役にのぼり詰めた「ホンダ史」に残る猛者だ。本書は77本の本田宗一郎のお言葉とその解説である。よくありがちな構成なのだが本田宗一郎ファンとしては、グッとくる言葉が満載されている。
「根性」というのは科学的な理論の上に成り立っているんだよ。
なにがなんだかよくわからないが素晴らしい!
レースをしなきゃ車は良くならん。
本田宗一郎にとってレースとクルマづくりと経営は一体だったのだ。
勝とうというのに寝るなんて贅沢だ。
最近はレースに関係なさそうな居酒屋までも社員に寝るなというらしいので要注意。
本田という人がいた、ぐらいのことでいい。
ヨッ!大統領!大師匠!会ってみたかったー!
いかん、つい興奮してしまった。気を取り直して、「はじめに」で著者は本田宗一郎の思い出を語っているから、少し引用してみよう。
今でも時々、本田宗一郎の夢を見る。
必ずと言ってもよいくらい、「できたかッ」という大きな声で目が覚める。しばらく布団の中で、どんな夢だったかをたどってみるのだが、きまって、夢のストーリーの始まりが「バカヤロー!」である。次には「やってみもせんで」、そして「すぐやんなさい」と続く。
経営者はこうあらねばならぬ。しかし、本田宗一郎のように天性の愛嬌がなければ、こうあってはならない。経営力があっても愛嬌がない経営者が経営する企業をブラック企業というのかもしれない。