素晴らしき世界の食卓『小泉武夫のミラクル食文化論』

2013年6月26日 印刷向け表示
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小泉武夫のミラクル食文化論

作者:小泉 武夫
出版社:亜紀書房
発売日:2013-04-25
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「(4年目にして)授業に出て、勉強しよう」と思い立った矢先、就活が始まった。説明会や面接に時間をとられ、授業に出る暇もない。全くストレスが溜まる。鬱憤を晴らすために手に取る本は、小泉武夫先生の著書だ。就活なんて止めて、辺境に食べ歩きに出かけようか。未来を案ずるより、食卓に並ぶ納豆、キムチ、くさやが気になる。ああ、お酒が飲みたい。先生の著書は私のオアシスである。よくも悪くも「人生どうにでもなる」と強く思わせてくれる。

小泉武夫先生は発酵学者であり食文化論者であると同時に、学術調査を兼ねて世界中の辺境を旅しながら、あらゆる寄食、珍味を口にする「食の冒険家」だ。本書は、2009年、東京農業大学教授としての最後の半年の講義を収めたものである。テーマは「食文化論」。ヒトが何を食べてきたかにはじまり、現代に伝えられる食の知恵を体系的に学ぶことができる。食の知識は幅広く、人類学、考古学、そして古文書まで網羅した内容で、さらに、世界辺境秘話も満載であり、小泉先生を知る入門書として本書をお勧めしたい。

“私たちの安心で安全な「食」を支えてきたのは、「本能」ではなく、「知恵」という名の文化なのです。”

縄文時代の食生活には「知恵」がたくさん詰まっている。450万年前、人間は虫からタンパク質を得て、木の実や地下茎から炭水化物と脂質を得た。後々、火や道具を駆使することとなるが、彼らは火の使用方法ひとつにしても、様々な工夫を施した。たとえば、物を燃やした際に出てくる灰は、火にかぶせて火種にしたり(埋火という)、防腐剤として活用する。そして灰と粘土で作ったコップや、蒸し器までもが発明されている。縄文時代には、焼く、煮る、蒸す、という調理法が定着していたのだ。

本書では、その後、原始国家のはじまり、酒、塩、そして保存する技術へと続く。私は食の教養が皆無なので、ただただ目を見開くばかりである。ただ、1回通読しただけでは、食の知恵の素晴らしさを十分に噛み締めることができなかった。好奇心には十分訴えかけるが、重要性に対する私の理解が追いつかない。小泉先生が100冊以上の著書を執筆して、世に訴える食のロマン、伝統を失う危機感などは、噛めば噛むほど味が出てくるように、何度も読むことでじわじわと考えさせられる。冒頭にも書いたとおり、本書は入門書としてお勧めする。本書に登場する先生の関連図書は、『酒の話』『キムチの誘惑』『漬け物大全』『発酵は錬金術である』等、ハマるには十分すぎるほどバラエティに富んでいる。

先生の話術と写真が繰り出すパフォーマンスは健在だ。たとえば、先生がカンボジアのラタナキリに取材に行ったときのこと。

「ここで、450年前から人は何を食べてきたかという講義にふさわしい写真を見せます。私がクモを食べているところです。(中略)。焼いたクモはどんな味がするか。これね、美味しいですよ。沢蟹ってありますよね? 小さなカニで、料理屋さんに行くと、油でさっと唐揚げにして食べさせてくれる。それと同じ味がします。口のなかでシャリシャリという感じがするのです。」

と続くクモの食感の詳細。さらに、カンボジアの巨大焼きグモを幸せそうに食す著者のドアップ写真。続いて、

「もう一枚、面白い写真をお見せします。私がカンボジアで食べた虫を皿の上に乗せて撮ってみました。まずはクモですね。それからコオロギ、それからサナギですね。日本の田んぼにもいるゲンゴロウ、水棲昆虫も食べました。これは美味しい。」

ここから次のページをめくらなければならないのだが、丸焦げにされた大きな虫がお皿の上に行儀良く並べられているのを見る勇気はさすがにない。しかし、先生の幸せそうな笑顔を見ると、虫を食べてみたくなる人もいるかもしれない。

本書は第9章まである。1章が1回分の講義である。つまり、1日1章読めば、読者は9日間、小泉先生の講義を受けることができるということだ。食料自給率や輸入品の安全性など、日本の食は大きな危機に瀕している。小泉先生は、それらの危機に警鐘を鳴らす第一人者だ。楽しく学んだ9日間ののち、読者は自分の食生活を見直さざるを得なくなるだろう。博識な小泉先生、あなたの授業にメロメロです。

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作者:小泉 武夫
出版社:中央公論社
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発酵学を微生物から学びたい人にお勧めです。

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