『実に美しい』と、ガリレオの福山雅治のようにつぶやきたくなる写真集だ。人体のいろいろな細胞や組織の写真が300点以上。どのページを開いても、見事に美しいのだからたまらない。
電子顕微鏡は、可視光のかわりに電子線を使い、光学顕微鏡では見ることができないような小さなものまで見ることができる顕微鏡である。それには透過型と走査型があって、透過型は薄い標本を見るためのものである。一方、走査型は、見たい対象の表面を電子線でスキャンしていくもので、標本の表面構造を見ることができる。
この本の図の多くは走査電子顕微鏡写真である。いってみれば、ものすごい倍率の『虫眼鏡』で人体の中をのぞき込むようなものだ。残念ながら、もともとの電子顕微鏡写真は白黒でしかないが、この本では、それらしい疑似彩色がほどこされており、美しいカラー図譜になっている。
見開きがワンセットになっており、右側のページいっぱいに強拡大の写真。左側のページには、右側ページの写真のオリエンテーションをつけるための弱拡大の写真と説明キャプション、といった感じ。キャプションは長からず短からず、細胞の形態と機能を正しく教えてくれて、写真への興味をいや増してくれる。
仕事柄、写真にとりあげられている細胞や組織は、さすがに知っているものばかりである。しかし、この細胞が実際にはこんなふうに見えるのかと驚いたり、ただひたすらに美しいではないかとため息をつくような写真ばかりであった。かくも精巧に人体を作り上げた進化の妙というものに、あらためて感動を禁じ得ない。
中に入りこんでいこうと卵子の表面で蠢くたくさんの精子、出血を止めるためにたくさん集まってきた血小板、異物を文字通り掃き出そうとする気管上皮の繊毛、などなど、どの写真を見ても、生命というものがいとおしくなることうけあいである。一方で、恐ろしいのは歯の写真。意外にざらざらしたエナメル質の表面に、びっしりと細菌がへばりついていて、思わず歯を磨きたくなってしまったほどである。
百聞は一見にしかず。ぜひ、本屋さんでこの図鑑を手にとって眺めてほしい。『実に美しい』とつぶやいてみたくなるはずだ。これだけ美しい写真が300以上もあって三千円以下、一枚あたり10円を切るのである。つぶやくだけでなく、きっと買いたくなってしまうだろう。
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これは姉妹編。壁にすいつくヤモリの足から鍾乳石まで、不思議な自然現象の構造はこうなっているのかと感動必至の一冊。