世の中にたくさん存在しているであろう、成毛眞をはじめとした多くのトイレ読書家に、ぜひともオススメしたい本が文庫として再発売された。
文庫サイズで2310円もするのだが、これは安い買い物だ誰もが思うに違いない。『たべもの起源事典 日本編』は10年前、単行本が出版されたとき、買おうかどうか、非常に迷ったのをよく覚えている。1300項目にも及ぶ日本の食文化をほぼ網羅した事典は、買っても本棚に大事に仕舞い込んで、結局は活用できないのではないか、と思ったからだ。
しかし今回、ちくま文庫の大英断で、少々値段は張るにせよ、どこに置いておいても惜しくない文庫本となって再登場したのは大変喜ばしい。(元は東京堂出版)800ページを超える厚さでもトイレやベッドサイドに置いて、ちょこっと一項目読むには苦にならない。なによりペラペラっとして止まったページを読むという、辞書好き・百科事典好きにはたまらない。
適当に開いてみよう。まずはせんべい。
干菓子の一種でコメせんべいとコムギせんべいの2種の系統がある。中国語の煎餅(センヘイ)が転訛したとする説がある。
から始まって3ページにもわたる説明が続く。日本中にはこんなにせんべいの種類があるのかと驚いた後は、千枚漬けである。
京都特産の聖護院カブの漬物、もともとは、シソの葉を重ねて塩漬けにしたもの
へえぇと驚き、次の項目は繊羅葡(せんろっぽ)
ダイコンを繊に刻み、汁の実にしたもの(中略)千六本と書くのは俗説
なんと室町中期の「下学集」にその記述があるそうな。千六本に切るぐらい細かいからじゃないんだ。
最近ではテレビ番組やクイズ、B級グルメのイベントなどで地方独特の料理を目にすることもも増えてきたが、それでもギョっとさせられることは多い。鎌倉漬けって今でもあるの?飫肥天の風味は天下一品ってどんなもの?鹿児島県の春羹ってどんな味?
どうして蕎麦屋の屋号に「庵」が使われるのか、や、ダイコンの種類を絵で説明したり、天ぷら起源の諸説も懇切丁寧に書かれている。
巻末の参考文献の数はなんと640冊。著者の岡田哲氏は食文化研究家で、日清製粉に勤務後、放送大学で食文化史を担当されていた。これだけのものを一人でまとめた、ということに頭が下がる。ご本人は「たぐいまれな食いしん坊」と自称されているそうな。もちろん世界編も出版されているので(現在絶版)、きっとこちらも文庫化されるだろう。
夜中にパラパラ拾い読みしていると、お腹が空いて思わず何か食べてしまいそうで怖い。ここのところお腹まわりが気になるのだが、それは本書のせいではない…と思う。