採点:★★★★★
仕事に対する新たな考え方・視点を得たい人、愉快な文章でにやにやしたい人、趣味をみつけたい人におススメ
森博嗣氏のブログがまとめられた本書は新刊ではない(1巻は2006年3月発行)が、とにかくめちゃくちゃ面白く、また、その内容が全く古くなっていないのでご紹介。
昨年末に日垣隆氏の『こう考えれば、うまくいく。』で本書の存在を知り1巻を購入したらあまりに面白く、現在3巻までを読了。13巻まであるようなので、しばらくは残りを気にせず思いっきり楽しめる。
MORI LOG ACADEMY〈1〉 (ダ・ヴィンチ ブックス) (2006/03) 森 博嗣 |
■あらすじ
本書は2005年10月1日から『WEB ダ・ヴィンチ』上で毎日(!!)休みなく更新されたものを文庫にまとめた一冊。(現在は公開されていない)
本書の内容はHR(ホームルーム)と国語・算数・理科・社会・図工に分かれているが、その多く(2/3程度)はHRである。HRでは著者が工作や庭いじり、ペットの教育、そしてもちろん小説の執筆を通して体験したこと、感じたことがまとめられており、仕事に対する向き合い方や、人生における趣味の果たす役割等に対するヒントを得ながら、緻密で合理的な物事の捉え方を追体験できる。
■感想
「自分で考えろ」というアドバイスは矛盾を含んでいるが、本書を読んでいると自分が発する言葉のどれくらいが本当に自分の中からでてきたものだろうかと考えてしまう(模倣の後にしか個性は生まれないのかもしれないけれど)。ただし、本書がそのようなメッセージの発信を意図しているわけではないし、そもそも著者は「~しなさい」とは言わない。自分がそのように感じたというだけなのだ。
主義主張をメインに打ち出そうなんて、全然考えていない。ここを読んで自分にとって新しいものを見つけられる人は、読んで得をすることになるし、そうでない人は読まなくなるだろう。誰もが、自分に価値があるものを自分の力で得ることができる。 (『MORI LOG ACADEMY 2』 P.49より)
これだけのクオリティ(クオリティーではない)の内容を毎日アップし続けたということは本当に驚きだ。しかも、そのどれもがどこかで聞いたことのあるようなものでなく、どこまでも森博嗣の中から出てきた言葉なのだ。著者にはネタ帳やアイディアのストックというものがそもそもないので、「ネタが尽きる」ことなどないそうだが、星新一が聞いたらなんというだろう・・・
HPや本などで、鉄道以外の模型のことを極力書かないことにしている。それは、自分がやっていることが、まだまだ未熟で、公開できるようなオリジナリティを自身で見出せないためだ。もちろん、自分が楽しむことはできる。ただ、他人にとっても価値を有するためには、やはりそれなりのオリジナリティが必要だと考えている。 『MORI LOG ACADEMY 1』 P.167より)
様々な著書の中で、インターネット黎明期のWeb上のコンテンツのすばらしさについて言及しているが、そこには「オリジナリティ」と「他者へ価値を提供しようとする姿勢」があったのだろう。このブログもそのような存在にしたいものだ。
仕事において「時間を守る」ということがどうことか、理系の世界から文系の世界へ飛び込んだことによるとまどいなど、自分が普段からなんとなく考えていることが明確に言語化されていて気持ちがよい。郵政民営化などの時事ネタについても取り上げているが、その問題への取り組み方、考え方の視点などは全く古くなっておらず、今読んでも十分に楽しめるし、新しいものを見つけられる。当然、誰に対してもそうであると言っているわけではない。